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第35話
撮影が無事にクランクアップを迎え、打ち上げの流れになった。だがこのあとも仕事があったので別日に参加することを伝えると男のスタッフが寂しそうに顔を伏せた。
「じゃあ南雲さんたちが参加するときはとびきり豪華なところにします!」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
「あと天根さんからいただいたスカルプブラシのお陰で髪がしっかりしてきました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
ではとスタッフは頭を下げて行ってしまった。それを見送ったあと隣の天根に目を向ける。
「おまえマメだよな」
「しかたがないよ」
そう言って慈愛のある瞳でみつめられると落ち着かなくなる。
ドラマの最終回で栗山と朝香は恋人になった。そのせいか天根の声音はミルクセーキのように甘い。
「明日は休み?」
「そうだよ」
「午後に空くから出かけようよ」
ドラマは終わったというのにまだ朝香が抜けていない天根の笑顔に耳の裏がじわりと熱を持つ。晶もまだ栗山の残滓があったのかもしれない。
「……別にいいけど」
「ただのお出かけじゃないよ。デート」
「デート!?」
「どこに行くかは楽しみにしてて」
耳元で囁かれ吐息に耳殻が震える。
恋人ごっこの延長だろうか。もうドラマはクランクアップを迎えたのだから、ふりをし続ける理由もない。
それとも最後にデートをして、恋人ごっこを解消しようと思っているのだろうか。
「最後」という単語が胸に引っかかる。
もう恋人のふりをし続ける理由はないのに、いざ終わりを目の前にして寂しさもあった。どうしそんな感情が芽生えるのか首を傾げたが、すぐに答えは出てこなかった。
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