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第39話

 引っ越すと言ったが、天根が頑なに拒んだ。  荷物をまとめたバッグを取りあげられてしまい、子どものようなわがままに困り果ててしまう。  葛西や田貝に相談を持ちかけると家事ができない天根の代わりにやってあげてよ、と最初と同じことを返されて終結した。  しょうがないなとは言いつつも、本当は一緒にいたかったとは恥ずかしくて言えない。  「まぁ社長たちに言われたら仕方がないな」  「理由はどうあれ一緒にいられて嬉しいです」  そのまま抱きしめられて固まってしまった。背中に腕を回した方がいいのか、でも馴れ馴れしくはないかと悩んでしまい宙を舞った手はそのまま拳をつくる。  「仕事は?」  「午後からラジオ生放送」  「わかりました。なるべく早く帰ってきます」  蜂蜜より甘ったるい笑顔を向けられて頬が熱を持つ。それが素の天根だとわかったからだ。  仮面をかぶっていない感情を向けられるとどきまぎしてしまう。身体が自分の意思ではどうしようもないほど熱くなる。  「ではいってきます」  「いってらっしゃい」  玄関まで見送り扉が閉まるまで手を振る。自分もたいがい恋人というものを理解しているなと冷静に分析した。

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