涙が止まらなくなり、与えられる悦楽に耐えられない。 　指が抜かれると今度は熱く猛ったものをあてがわれた。 　ひっと喉が引き攣る。そんな大きなもの挿いって大丈夫なのかと不安があったが、天根の苦しそうな表情を見て愛おしさが広がる。 　「……いいよ」 　脚を広げると天根はキスをしながら奥へと腰を進めてくれた。 　「んんっ、ふっ、あっあっ」 　指とは比べ物にならない質量に息が詰まる。けれど舌が口を開くように促し、喘ぎながら酸素を取り込む。 　キスの甘さに溺れながら、どんどんと奥へと進む。天根の下生えが脚の付け根に触れる感覚にすら感じてしまい上ずった声が漏れた。 　様子を伺いながら進んだり、止まったりを繰り返し根元まで飲み込んだときにはお互い汗でびっしょりと濡れていた。 　いままで感じたことのない内臓が押し出される圧迫感で苦しい。荒い呼吸を繰り返していると頬を撫でられて瞼を開けた。 　「辛い？」 　「へーき。ちょっと苦しいだけだから」 　「馴染むまで待ってます」 　そう言ってキスをしたり愛撫をされたり、結合部分が溶け込むのを耐えてくれていた。 　しばらくするとなかのものがひくりと動く。どうやら身体が慣れてきたみたいだ。 　背中に腕を回し、自分の方に引き寄せると律動が始まった。最初は気遣うようにゆっくりだった動きが、どんどん荒々しくなる。反った首筋に唇が触れた感覚すら官能さを増す。 　「あっ、ああ、もう、だめ……あっ」 　なかの質量がぐっと増し、熱いものが注がれた。力をなくした天根が体重をかけないように上に覆いかぶさってくる。 　「すぐイっちゃった」 　「ごめん、ずっと我慢させてたよな」 　「可愛すぎるのが悪い。好き。大好き」 　何度も好きと言われ、何度も言った。 　熱が落ち着いてきてキスをして愛撫を受けてと甘い時間を過ごしているのに天根の表情は暗い。初めてのセックス後とは思えない陰湿さだ。 　長い前髪をかき分けてあげると目尻が赤く染まっている。 　「すいません。すぐ助けられなくて」 　なんのことがすぐにはわからず、反応が遅れた。 パーティー会場で監督から受けた行為を天根に見られていたらしい。 　けれど天根の後悔している表情に安心して涙が溢れてくる。 　「今度からあの監督と二人っきりになったら逃げてくださいね」 　「うん」 　「……晶さんの身体を触ってまじ許さねぇ」 　ドスの効いた声は初めて会ったときの殺人犯を彷彿とさせた。いまからでも監督を殺しに行きそうな迫力に小さく笑う。 　「映画化の話が出てるの知ってます？」 　「え、そうなの？」 　「さっきプロデューサーから訊いたんですけど、年明けに撮影するかもって」 　「嬉しい。また栗山を演じられる」 　「栗山の演技がすごく話題になりましたからね」 　「そうなの？」 　初回放送はスタジオの会議室でスタッフ、共演者とみんなで観た。そのときに若いスタッフがＳＮＳをチェックしていた記憶があるが、その後自分で調べてはいない。 　話題になっていると人づてに聞いていただけだった。 　「これ見てください」 　天根にスマートフォンを手渡された。『それでも、キミが』についての掲示板らしく、様々なコメントが書かれている。 　「晶くんの色気やばい」「まじ泣いた。二人の演技がよかった」「キリカンのイメージ消えたわ」「晶たん推し」など高評価ばかりの言葉ばかりだ。 　「……こんなに」 　好意的な声に驚く。 　ＳＮＳはマイナスなことを書かれると決めつけて見ないようにしているのもあり、世間からどう評価されているか知らなかった。 　それにラジオの件でいいことは書かれないだろうと諦めていた節もある。 　「やっぱり晶さんはすごい。たった一作出てこんなにファンを増やして」 　「それ嫌味？　天根の方がすごいじゃん。ＣＭも何本もやってるし」 　「でも俺といったらこの作品っていう代表作がないんですよ」 　「大空戦隊があるじゃん」 　「あれはデビューってだけで代表作じゃない。そのせいでソラを求められてるし」 　唇を尖らせて拗ねる天根が可愛く見えた。なんでもそつなくこなし、役を演じたらプライベートまで犠牲にしてのめり込んでいるのに、仮面を取れば年相応の青年だ。 　「でも映画やるならまたあの監督だよな。もう会わせたくない」 　「仕事だからそこはきっちり割り切ろうよ」 　「監督として尊敬してますけど、恋人を好き勝手触られていい気するわけないじゃないですか」 　「……恋人」 　もう一度口のなかで繰り返すと天根との関係がより明確になった気がする。そうか、恋人なのかと今更ながらに思い、実感すると恥ずかしくなった。 　キスもそれ以上をしたばかりでまだ身体に名残が残っているせいだからだろうか。 　「あ！　忘れるところでした。プレゼントあるんですよ」 　天根は裸のままクローゼットのなかにしまってあった紙袋を手に戻ってきた。 　「メリークリスマス」 　「ごめん、僕用意してない」 　パーティーのプレゼントのことばかり気になってしまい、天根にあげるプレゼントを用意するのを忘れていた。 　「俺はもう貰ってますよ」 　「なんかあげたっけ？」 　「それより早く開けてみてください」 　促されるままキレイにラッピングされた箱を開けると黒いベルトが入っていた。 　「カッコいい」 　「毎日使ってくださいね」 　「ありがとう」 　ぎしっとベッドが軋み、天根の顔が耳元に近づく。 　「これ外すの俺だけですよ」 　意味を理解するのに数秒かかり、これ以上ないくらい顔が赤くなった。 　「使うの楽しみだなぁ」 　にこやかな顔の天根を見ていられず、火照る身体を布団のなかに埋めた。