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第51話
待ち合わせ場所に着くと人だかりができていて、嫌な予感しかしない。輪の中心にピンク色の髪がぴょこぴょこと跳ねているのが見え眩暈を起こしそうになった。触らぬ神に祟りなし。回れ右をして帰ろうとすると「晶ちゃん!」と大声で呼ばれ、周りの視線がこちらに向けられる。
「もしかして南雲晶!?」「二人仲いいの?」とともに歓声が響き、道行く人たちが大波のように押し寄せてきた。
その波に逆らいながらタクシーに清を押し込んだ。発車するまで清はのんびりと窓越しに手を振っている。
「おまえ、目立つようなことすんなよ」
「ごめん、ごめん。清くんですか? て訊かれてそうだよって言ったらいつの間にあんなになっちゃって」
「適当に誤魔化せよ」
ただでさえピンク色の髪は目立つ。
ドラマや映画に脇役ながらも多く出演している清は知名度も右肩上がり中だ。SNSのフォロアー数も何万人といるらしくデビュー間もないと思えないほど人気がある。
人気の秘訣は天性の人懐っこさだ。甘えるのが上手で初対面とでもすぐ距離を縮められる。
楓潔子の息子というアドバンテージだけでなく、本人の性格が人気に拍車をかけているのだろう。
それに天根がキラキラ王子様だとすると清はわんこ系でファン層が被ってないところも人気に追い打ちをかけているのだろうと分析している。
「なんか嘘つくの申し訳なくて」
「そこが清のいいところだけどな」
「晶ちゃんも嘘は苦手でしょ」
くりくりと大きな目で見られて下を向いた。確かに嘘は苦手だ。マサキの一件以来気をつけなければとは思っているが、そう簡単にできたら苦労しない。
「嘘がうまくつけないと芸能界は生きづらいよね」
「それ楓さんの言葉?」
「そう。あの人、面の皮分厚すぎるから」
楓は若いうちに一般男性と結婚して三人の子どもを産んだ。六十を超えても人気が衰えることがなく、ドラマの出演本数を伸ばしている。芸能界の酸いも甘いもすべて知っているからこその言葉なのだろう。
芸能人は一歩外に出ればプライベートはなく、変装はマスト。どこに行っても人の目を気にしないといけない。デートなんてもってのほか。
スキャンダルを起こしたら芸能人生が終わる。
ふと天根との関係はどうだろうかと思った。同性同士のカップルなんてスキャンダルのかっこうの餌食だ。天根の人気が急落するのは目に見えている。
気をつけなければ。でもいつまで?
異性だったら「結婚」できるので、そこで一区切りになる。付き合っているのはダメだけど結婚は覚悟が見えるからいいという考えらしい。
けれど同性同士のライフステージはこれ以上がない。
ぼんやりしていると清に腕を引っ張られた。
「それよりなに食べたい?」
「なんでもいいよ」
「じゃあ肉!」
「普通年越しそばだろ」
「やだよ、そんな年寄りくさいもの」
そう言って清がオススメの焼き肉屋に向かってもらい、たらふく食べた。大晦日なのでいつもより人が多く通りは賑わっている。
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