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第60話

 怒涛の数のカメラや記者やスタッフたちをすり抜け、田貝や乾に追いかけ回され頭を下げつつ、天根と手を繋いで会場から逃げ出した。  天根が会場のホテルで宿泊していると言うので迷わず部屋に向かった。  扉を閉めてドアストッパーをかけるとさっきまでの怒号が嘘のように静かになる。  「……ここまで、来れば大丈夫ですかね」  「ふっはは! 田貝さんの顔やばかったな」  「晶さんのせいですよ」  「わかってる。ごめん」  「笑いながら謝ったって許しません」  頬を両手で挾まれ、タコのように唇を尖らせられるとそこにキスをされた。  「なんであんなこと言っちゃうんですか」  「断られないようにプロポーズしたかったし」  「プロポーズ?」  「そうだよ。僕の一世一代のプロポーズ。あれだけ人がいて全国に生中継されてるんだから、断れないだろ」  意地悪く笑ってみせると天根は頭を抱えて項垂れてしまった。  映画のラストで栗山が朝香にプロポーズをした。二人の気持ちは強いのだといくら言葉にしても不安な朝香のために給料三か月分の指輪を送って、周りに公表した。  そうすると世界が一変した。みんな祝福してくれ二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、とおとぎ話のようなハッピーエンドを迎えた。きっと死ぬまで一緒にいるのだろうと思えるラストだった。  その関係が羨ましい。  芸能人を続けている限りまたいつかどちらかがスキャンダルのネタにされるかもしれない。  それ以外に貶められる記事を偽造されるかもしれない。  その度に傷つきたくなかった。傷つきさせたくなかった。  ならもう正々堂々と宣言すれば、なにも怖くない。  二人の気持ちは固いのだと知ってもらいたかった。  けれどこれは自分が勝手に行動したことだ。  頭を抱えたままの天根の背中に抱き、回した腕に力を込める。  「ごめん、迷惑だった?」  「嬉しすぎて心臓破裂しそう」  くるっと向きを変えられて正面から抱き合う。ちょうど天根の心臓のところに耳があたり、どくどくと大きく拍動していた。  「天根には僕がいるし、僕には天根がいる。これってすごいことじゃない?」  「主演男優賞ですもんね」  スマートフォンの着信音が鳴り止まず、外には人の気配がする。田貝たちに事情を説明しなければならないとわかっているのに、高鳴る熱をこのままにしておきたくなかった。  視線が合っただけで天根も同じなのが伝わってくる。  まるでそれが合図かのようにキスをしながらベッドに移動した。身体を撫でられる手が熱い。  ジャケットを脱がしてもらい、シャツを乱暴にめくられると期待で胸が躍る。  「そんな煽る顔止めてください」  「どんな顔?」  「欲情しきってますよ」  顎を掴まれてベッド横の窓ガラスの方に顔を向けさせられると瞳を濡れさせた自分の顔が映っていた。外が暗い分、ガラスでもはっきり見える。  「やだ……恥ずかしい」  「ほら、よく見てください。キスだけでこんなにとろとろになっちゃってます」  顔を背けても再び顎を掴まれてしまう。そんな自分の顔は見たくない。  「ねぇキスしたい」  「いっぱいしてあげる」  唇に歯を立てられながらのキスは痛みと快楽に脳が犯される。舌を絡ませられると窒息しそうなほど吸われ、甘い嬌声が漏れた。  指で乳首を擦られながらされるキスは全身を蕩けさせ、身体が言うことをきかなくなる。  力の抜けた脚を持ち上げられ、天根の動きが止まった。  「これって」  「天根がくれたプレゼント」  クリスマスプレゼントでもらったベルトを撫でると天根はごくんと唾を飲んだ。  「約束を守ってくれて嬉しい。これを外すのは俺だけですもんね」  ベルトを丁寧に外し、スラックスと下着を脱がされる。  屹立はこれ以上ないほど張り詰めていて、先走りが溢れていた。それを指に絡ませた天根は臀部に指を這わせる。  硬く閉ざされた蕾は花開くように指を受け入れ、快楽を求めるようにうねる。  「あっ、あぁ……ん」  「ここ熱い」  指を増やされ圧迫感が増す。余計な力が入ると痛くなると知っている身体は四肢をだらりとさせてさせるがままだ。  ペニスを口に含まれ、快楽がどんどん高みに向けてのぼり詰めていく。  (もうでちゃう)  腰をひくひくさせて射精感に集中しているとぱっと口を離された。  限界手前で止められてしまい訴えるように天根を睨みつけると意地の悪い顔をしている。  「今夜はじっくり味わいたいのでまだイっちゃダメです」  「嘘だろ」  我ながら情けない声だ。高められた熱は吐き出すことを許されず身体のなかで暴れまわっている。まるで線グラフのようにゆらゆら揺れて、限界にはいかせてもらえず同じ場所を行ったりきたりして、晶のなかで燻り続けた。  指が弱いところをわざと外す。そこじゃないと腰を揺らすとまた逃げられる。限界が近いのに出せない欲に頭がおかしくなりそうだ。  「天根……あっ、あ、天根っ」  「挿れますね」  股の間に入った天根はゆっくりと腰を進めた。指よりも質量のある屹立に歓喜の喘ぎ声が漏れる。  けれどそれは奥へとは進まず、入口を浅く前後するだけで物足りない。  「それやだぁ」  「言ったでしょ? 今夜は堪能したいんです」  あざ笑うかのような律動に翻弄される。快楽が頂点を極められなくてずっと体内に注がれるので涙となって溢れた。  気持ちよくないわけじゃない。むしろずっと頂点手前を平行しているので、痺れるような快楽に犯され続けて身体が変になる。  強請るように腰を揺らすと頭上から笑い声がこぼれて、キスをされた。  「ねぇ、見て」  指さす方を見るとガラスに映った自分の顔と生々しい体勢にかっと頭に熱がのぼる。  「あっ、あぁ……あっ」  「可愛い。好き。大好き。俺だけの晶さん」  紡がれる言葉が甘く思考を溶かされる。まさに身も心もドロドロにされて、あまりの充足感にこれが夢なんじゃないかと錯覚するほどだった。  油断していたらいきなり奥を突かれ衝撃に射精してしまった。同時に腹に熱いものが注がれ、身体がぶるりと大きく震えた。  「奥の締めつけすごくて出ちゃいました」  荒く呼吸を繰り返していると口を塞がれて律動が始まる。硬さを保ったままの性器はまた入口付近を擦り始めた。  「ンンッ、やだ……それ、やっ、あっ」  イったばかりの身体に与えられる刺激はさっきよりも気持ちいい。物足りないと思っていた緩やかな律動ですら過敏な身体を高ぶらせるのに充分だった。  腰の動きに合わせて屹立を上下に扱かれる。仰け反った喉仏に歯をたてられ、痛みすら快楽に変わる。  情けなく喘ぎ声を漏らしながらされるがままだ。二度目の射精はすぐにきて、あとを追いかけるようになかに出された。  ぐるりと体勢を変えられ四つん這いにされる。尻を突き出す格好は獣の交尾のように生々しく、そんな体勢にさせられていることに興奮を覚えて、蕾がきゅっと締まった。  「ほら、よくガラスを見てくださいね」  顔を上げると欲情して顔を溶かした自分の顔と目をギラギラさせた天根と目が合う。視線が絡み合うだけで達してしまいそうだ。  再び性器が挿いってきてなかに残った精液を塗り込めるように動かれる。動きが滑らかになり、律動に合わせるように腰を揺らした。  入口付近から少し奥へと進めているがなかなか弱い部分にはこない。焦れったくて振り返ると「まだダメ」と耳元で囁かれ、腰を掴まれる。  快感に膝が震えてしまう。先走りが溢れて、シーツに染みをつくった。  「あっ、あぁ……はっ、あ」  「なかすごい熱くて痙攣してますよ。気持ちいい?」  頷くとガラス越しで天根が白い歯を覗かせて笑った。  腕を引っ張られ、天根の上に跨る体勢にさせられる。汗ばんだ背中を天根の胸板に預けた。  「よく見て」  両脚を左右にげられ、結合部分がガラスに映る。自分のなかに天根の雄が挿いっている。白濁が脚の付け根から臀部にまで垂れ、生々しい情景に目を丸くした。  「やだっ、天根……」  「上手に咥え込んでますよ」  「あっあ、あ」  腰を掴まれ最奥を穿たれる。待ちに待った刺激に達してしまった。頭のなかが白くなり、数秒意識が飛んだ。  ぐっと再び奥を突かれた刺激に我に返り、また声をあげた。  達したばかりの天根はまだ時間がかかるらしい。 このまま突かれ続けたら死んでしまう。  「ちょっとやってみたいことあるんでいいですか?」  「あっ、え、ちょっと……んあ!」  後ろから抱えられ、そのまま窓ガラスの方へ向かう。繋がったままなので歩くたびになかを擦られて、変な声が出た。  窓ガラスと天根の間に挟まれると身体を押しつけられる。夜の冷気を吸い込んだガラスはひやりと冷たく、火照った身体はガラスを溶かしてしまいそうだ。  天根は再び腰を動かし、晶の性器をガラスに擦りつけさせた。垂れた先走りがガラスにたらりと伝っている。  「やだ、なにっ、ちょっ」  「いまみんな見上げたら恥ずかしい姿が見られちゃいますね」  外を見下ろすと人通りが多い。さっきまで授賞式が行われていたのでカメラマンや記者らしき人たちの小さな頭が見えた。  「やめっ天根、あぁ、あっ」  脚を抱えられたままなので身動がとれない。宙に浮いている身体は天根の動きに任せるほかになく、されるがままだ。  窓ガラスの冷たさと背中に感じる天根の熱に溶かされてしまう。  「あっ、あ」  抗えない射精感に頭が白くなりながら天根の精液が体内に注がれるのを感じた。ポタポタと床に落ちていく。  身体は痙攣し、力が入らない。くたりと背中に身体を預けるとやっとベッドに寝かせてくれた。  何度もなかに出された精液が出ていくのがわかる。それにすら感じてしまう。  「すごい。なかイキしてる」  なにを言っているのかわからない。  身体は痙攣し続け、まだ天根のがなかにいるような錯覚がありお腹が重たい。  喋ることも億劫でベッドに身を預けた。  ぐらぐら揺れる意識のなか、天根が口角をあげた。  「一回全部出しましょうか」  天根の指がなかに入り、精液を掻き出してくれる。事務的な作業だというのにそれにすら感じてしまい上擦った声をあげた。  数秒とおかずにイってしまった。少しの刺激でも耐えられない。  意識が遠のいていくのがわかる。何度達したかわからない身体は鉛のように重たい。  「寝ちゃダメですよ。堪能したいって言ったじゃないですか」  「嘘だろ……もう無理。あっ、あぁ、あっ」  鬼のような宣言にまた性器が挿いってくる。嫌だと頭を振りつつも身体は素直に快楽に溺れ、部屋に嬌声が響く。  それは夜空が白み始めるまで続いた。

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