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第7話ユリ視点

 暫く現れなかった子が、突然暗い顔でやってきたので驚いた。最後に見たのはライブかもしれない。  会うなりお仕置きして、痛い事してと懇願された。 「それ私にメリットある? ボランティアしたって何の意味も無いんだけど?」  本当はしても良いし、最終的にはするのだろうけれど、こうなった理由と原因を突き止めない事には始められない。  彼は黙り込んでいる。 「私じゃなくてもいいよね?」  ソファの下で正座していた子は、とても可愛く、素直にびくりとした。  そうか、ご主人様が見つかったのか、でも何かが上手く行かなかったのかと、考える。  鞭で顎を上げさせながら詰めた。 「失礼だと思わない? 私はオナニーの道具じゃないよ?」  目にいっぱい、興奮の涙を溜めて、ごめんなさいと呟いている。  何を言ってんだか、自分で笑いそうになる。  私はそもそもただのオナニーの道具で間違ってはいない。  この子と今迄遊んできたのは私自身でもある、その矛盾というものも、M男は丸ごと受け入れる。  だからこそ、彼は謝りながらも帰ろうとはしないのだ、支配されてるのはどちらなのだろう。  理路整然とした女王様も中には居るが、私はそんな事には全く興味が無い。  矛盾を許される事が醍醐味の様なもので、これが私だ。  本当に綺麗で可愛い子が、どうしてこんなに暗い顔にならなければならないのか、怒りの矛先はこの子のご主人様に向かう。  こんなに可愛いのよ?  こんなに良い子なのよ? 「まだ始まっても居ないのに、これは何?」  張り詰めている股間を踏み付けた。  唸り声の後に、ごめんなさい、ごめんなさいと聴こえる。  これはきっと、今興奮して勃起してる事を、本当のご主人様に謝っている。 「女王様」なんて虚しい物だと思う。 「アホな子にはお仕置きしなきゃならないじゃない……」  悦びに震える、可愛い子。  手早く服を脱がして、四つん這いにさせた。  ゴム手袋越しに前立線を触れた反応で、ご主人様は何となくゲイの人なのかなと思う。  上手いのだろう。  前より反応が良い。  余りお尻は弄らない事にするつもりだが、容量の多いグリセリン浣腸液を入れる。  駄菓子屋のりんごゼリーみたいで、懐かしくて気に入っている。  この子はあまり我慢が効かない。  すぐ出したがるのを知っていて、そのまま床に転がしておく。  しかも、放置されるのも嫌いだ。  私は転がしたまま、スケッチブックを出してその蹲ってる姿を描いていた。  綺麗な筋肉だ、少し痩せたかもしれない。  以前のスケッチを開いて、この子も変わって行くんだなあと思う。  元々スケッチさせて貰う所から関係が始まっている。男性のヌードモデルを雇うより、趣味と実益を兼ねたのだ。  鉛筆の音と、彼の唸り声、啜り泣きだけが、部屋に響いていた。 「も……無理です……」 「早い、まだ。ちょっと体制変えて」 「うっ………」  本当は今迄より長く我慢している方だったが、もう少し。  彼はゆっくり上体を起こして、腕を張ったが、それ以上は動けないらしい。  また、静かになって、三枚目のクロッキーをする。  震えながら上体を上げてる姿はとても綺麗だ。 「少し顔上げて」 「ハイ………」  向こうもタイミングを計っているのだろう、冷や汗をかいている。  その無言の遣り取りが何よりも好きだった。  その姿を描き終えようかという頃に、彼は動いた。  鉛筆持ってる手を握って止めた。 「もう本当に無理です……」 「行っといで」  彼は一人でトイレに向かった。  ちゃんとスケッチは完成している。  卵から這い出てくる人間みたいだ。  だいたいいつも通り、これが終わると自分でシャワーを浴びに行く事になっている。  排泄を見られるのだけは嫌な様子で、一度も見た事が無い。  変態にもちゃんと好みはあるのだ。  タオルを用意してあげてから、クロッキーを眺めた。  身体の形が変わる程の何か、ドラムに関わる事なのだろう。  本当にこの子はドラム以外は何も出来ない。  ドラムも上手くなかったが、バイトもろくに出来なかったから、たまにお金をあげていた。  大した額では無いが、彼はただのグズでダメなやつだ。  出てきた彼の悲壮な顔が、またぞくりとする。  呼び寄せて、胸に抱える。 「君はいったい何がそんなに悲しいの?」 「放置は嫌い……絵を描かれるのは好き………」 「うん」 「放置は嫌い………」  ほったらかしにされた風の事を言うが、きっと自分の方がドラムに熱中していただけだろうと思う。  夢中になってふと我に返ったときに、相手がたまたま自分を見ていなかった、それだけの事だ。  終着してる相手に放置されたら勝手に壊れるかもしれない。  既に壊れそうなのだろう。  きっと私がするべき事は一つしかない。  縄で手首を縛って天井の梁についたフックにひっかける。  これが出来るマンションを探して、これが出来る様にフックを取り付けていた。  脚は踏ん張れる様に開いて固定した。 「寂しいのが嫌いなら沢山構ってあげる」 「嬉しい、嬉しい………」  バラ鞭の音が響く。  スパーンと、軽快だけど重い音。  この程度の痛みなら平気だろう、黙っている。  物足りないと態度で示されている様だ。  何度か叩いて赤くなって来た所で、一本鞭に変えた。  ピシッンとゆう音に変わる。 「っあぁぁぁ………」  今度はちゃんと痛いらしい、手の縄を掴んで、足の指が丸く床を掴む。  何度も何度も打った。  その度に悲鳴を上げて、悶える。 「動くな!」  叱咤すれば、ギュッと動くのを我慢する。  無茶な話だ、不安定な形で痛い事されて動くななんて。  私なら暴れるし、もっと騒ぐだろう。  それを必死で耐えるのだ、私が辞めるまで。  浣腸による便意には耐えられなくても、この子は鞭などの痛みにはいつまでも耐えてしまう。 「構われて嬉しいね?」 「ヤアアアあぁぁぁ!!」  乳首をギュッと抓ると、悲鳴を上げて、頭を私の肩に押し付けて頷く。 「お尻、お尻してください……犯して………」  やはり、ご主人様は相当なアナル好きの女か、ゲイだ。  言われたとおりにやっても面白くない、他のM男には絶対にそんな甘やかしをしない。  一瞬悩んだが、ため息をついて、そのままお尻に手を伸ばして撫でた。  ローションをとって、新しいゴム手袋をする。  後ろから指を押し込むと、面白い位喘ぐ。  少しだけ嫌がらせしてやる気になった。  今迄細いのしか入れた事が無いそこを、丹念に解してから、限界より少し大きいプラグを押し込む。  前からポタポタ汁が落ちていた。  手首の縄を解き、崩れてくるのを支えて、ソファに上半身を置いた。  SMのおかげでとても腕力がついてしまった。  多分小柄な男なら且つげるだろう。  そのまま、お尻が床に着く様に座らせてやると、良いところに当たるのか、ビクビクするし、自分の物に手を伸ばしている。 「誰が扱いて良いって言ったの?」  ビクッとして手を止める。 「悪い子だな、まだ構われ足りないんだ」 「ごめんなさい……」  手をソファに開いて伸ばして、耐えている。  ケインを手に取って、思いっきり振り下ろした。 「わぁぁぁぁ!!! いだいっいたいっ!」  今迄に無い叫び声だったが、再び振り下ろす。  また悲鳴。  喧しいし舌を噛んでも困るので、手拭いを噛ませた。  そしてまた振り下ろす。 「うぅぅ! うぅぅ! んうううう!!!」  軽いパニックを起こして、床に転がった。  それでも辞める訳には行かない。  お尻のプラグを足で踏みつけ、軽くグリグリと動かせばすぐに悶え出す。 「うっうんっう、うっうっうぅぅ!」  一度大きく動いて、勝手に射精をした。  再びケインを降る。  完全に伸びているのをまたソファに凭れさせて、打った。  やはり悲鳴は上げるが、もうぐったりして動かない。  何度打ったかわからない。  わからないが、ケインに血がついて、それが私の顔面に飛んできたので止めた。  これで良い。  これできっと、ご主人様も気付くだろう。  この弱くて、情けなくて、クズでゴミみたいな、可哀想な子の寂しさに。  捨てるなら、捨てられてしまえばいいのだ。   また次のご主人様が見つかるまで、私の所に居たらいい。  しかし、この可愛い生き物を幸せにしてくれる人間が、ちゃんと居ると願いたい。  私じゃない事だけは明白だ。  彼は次のアルバム、メンバー全員のサイン入れて持ってくるねと、約束して帰って行った。  ドラムも少しは上手になったもんねと伝えたら、照れた様に笑っていて、ああ、随分と長い付き合いになったもんだと思う。  彼がドラム始めたのは高校生一年生だったろうか、全く初めてのライブハウスで、顔を真っ赤にしていた。  ステージで滅茶苦茶に叩いてたのが嘘みたいだ。  ああ、ドラムはすっげえ下手くそだけど、この子は美しい、描きたいと思った。  そんな事を思い出しながら、新しいキャンバスを張った。    

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