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第1章 囚われて
第1章 囚われて
事の起こりは、こうだ。うたた寝から覚めたように目をしばたたくと、周囲は黒一色に塗りつぶされていた。平衡感覚が失われるほどの真の闇が、志木を押し包んでいたのだ。
うずくまったまま、きょろきょろする。ここは、どこだ? バイト先から独り暮らしのアパートに帰る途中、近道して公園を突っ切っていたはずなのに、鉄棒やブランコはいつの間に撤去された?
月が輝く空は? 金木犀の香りが漂う風が髪の毛をそよがせていた、それは確かだ。なのに……キツネに化かされたみたいだ。スマートフォンをいじりながら歩いている間に道に迷った? ……まさか。
虫に食われたように、ところどころ抜け落ちている記憶をたぐってみる。そうだ、車止めを跨ぐまぎわ異変が起きた。公園が面する通りがすぐそこに見えているにもかかわらず突然、結界が張られたように、行く手を阻まれてしまった。
後戻りしても、左右どちらへ駆けだしても、透明な壁にぶち当たるふうで尻餅をつくありさま。
焦れば焦るほどパントマイムを演じているような場面が繰り返されて、そうこうしているうちにバスのドアが閉まるさいの「プシュー」という音が聞こえた、気がした。次いで飛行機が離陸した瞬間を思わせて浮遊感が強まった。
ひどい耳鳴りがしたのを境に、だんだん意識が薄れていった。
そして、現在に至る。
「脱出系のアトラクションのモニターに選ばれた感じ? サプライズのオプション付きで? 演出が凝りすぎてて、おっかないんですけど」
努めてアハハと笑って不安をまぎらわせ、だが過呼吸を起こす予兆に心臓がバクバクする。落ち着け、と自分に言い聞かせた。今、いちばん欲しいものは、なんだ……?
「明かり……照明のスイッチを捜そう!」
脱出ゲーム、それも難易度の高いやつに関しては友だちと一緒に攻略ずみだ。もっとも高得点をマークしたあれは、空き店舗を改装した施設が舞台のごっこにすぎなかった。
対するここは、非常口のマークさえ見当たらない。もしかすると電気、それ自体が通っていないのだろうか。
頭をひと振りして気持ちを切り替えた。危険なものが転がっているかもしれない、床の一部が陥没しているかもしれない。なので膝をにじらせて慎重に進む。出口は必ずある、絶対に、きっとある。
ざわ、と産毛という産毛が逆立った。かさ、と何かが触れ合う音がした。家鳴りの類いか、違う……何者かが背後にひそんでいる、と直感がそう告げた。
微かな息づかいと衣ずれを、鋭敏さを増した神経が確かに捉えた。
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