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第6話

 鈍い光が視界をよぎった。滑車が巻き取られるように、膝から下がだんだん浮いていく。 ジャラジャラと禍々(まがまが)しい調べを奏でながら。 「こっ、今度は何をおっぱじめた!」  志木は悟った、悟らざるをえなかった。闇が濃度を増し、しかも腹這いに押さえ込まれたままだ。そのため、はっきりと見て確かめられないのは幸運なのか、それとも不運なのか。  実にまったくムカつくことに、鎖と一体型で、ベルト状の足枷をはめられてしまったとおぼしい。  鎖の一方の端はどこかにくくりつけられているとみえて、腰をひねるにつれてピンと張る。ゆるむどころか、志木をますますベッドに縫いつける。 「あんた、レイプの常習犯なのか。てきぱきしてて荷造りご無用の引っ越し屋の即戦力っていうか、ベタな展開すぎてシラけちゃうんですけど?」  せせら笑いはビブラートがかかり、唇がわななく。精油とやらの原料はジャスミンあたりだろうか。人肌で温められた、濃厚なまでの芳香に頭がくらくらしだした。  玉門がべたついて身じろぐたび、ねちゃねちゃと音を立てるのがおぞましい。おまけにマットレスにこすれるのが災いした形だ。あろうことか、ペニスが萌す。  アルフォンソが優雅に尻尾をさばきながら、いったん脇に退()いた。へべれけの酔っぱらいが電車で隣に座ったときのように、反射的に横にずれるとベルトが足首に食い込む。  志木は舌打ちひとつ躰をねじ曲げた。拘束具をむしり取ってしまわないと、逃げたくても逃げられない。手探りで留め金を外そうとして、 「わたしは夜目が利く。ナディール王国に少数棲息するヒトを問いただしたところによれば赤外線スコープなる品と同様に。おまえが躍起になって腰を振り立てるから、可憐な菊座がちらつくさまが鮮明に見える」  淡々とした口調で告げられて、ぴたりと静止した。拘束具と格闘するということは、みすみす秘処をさらけ出すということ、だって?   言いかえるとレイプ魔に餌を与えるようなもので、これでは自殺行為に等しい。 「ごちゃごちゃウザい、出ていけ!」  笑殺された。そのうえ古美術を鑑定するような、鋭い眼差しが花芯をちりちりと灼く。  先ほど試験的にいじられた感触がそこに甦るにつれて、下腹(したばら)の奥が火照りはじめた。飛び火して、玉門までがむずむずして仕方がない。  小手調べなんてケチケチしないで本格的にくじりたててほしいと、せがんでいるように。  志木は唇を嚙みしめた。二十歳(はたち)になっても未だに立派な童貞くんだ。ひとりエッチに関してはそれなりの頻度で、とはいえコトの最中に限らず、さもしげに後ろが疼いたことは一度だってない。

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