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第9話
「貞操の危機ってやつは脱したっぽい……」
志木は、ほうっと息を吐いて寝そべった。足枷をはめられたときは、てっきり監禁から凌辱へ至る定番のコースをたどるものだと思って震えあがった。取り越し苦労に終わって「やれやれ」といった反面、あくどい罠が用意されている予感がして落ち着かない。
「自称アルフォンソ・デュモリー公爵閣下。オレサマ野郎の獣人が、おれを性奴の待遇で召し抱えあそばす……?」
ぷっと噴き出した、げらげら笑った。性奴といえばオタク系の男のロマン、どっぷりと二次元に浸かりすぎたすえ病んだのか、と声を大にして言いたい
と、躰の芯がずくりと疼いた。精油に溶け込んだ媚薬の効力が薄れるまで、およそ六時間もかかるという。羽田、那覇間の往復フライト並で気が遠くなる。
「やせ我慢は毒。ヌイて、寝よ……」
英気を養う意味でも、ぐっすり眠っておかなくちゃで、ぐらぐらと煮えたぎるような精巣を早急に鎮めなきゃ、なのだ。アルフォンソが再び現れしだい、あいつをぶちのめして気色悪いここから脱出するために。
「ん……っ!」
ほんの数回、しごいただけで淫液が迸った。しかも常より濃いのが、たっぷりと。そのさまが遠隔操作による躾の一環に思えて、余韻が台なしだ。
だいたい放ってもすっきりするどころか、いまのはリハーサルで本番はこれから、というふうに瞬く間にみなぎっていく。
従来のやり方にこだわるから物足りないのだ。ひとりエッチのバリエーションが豊富になるよう、前をえこひいきするのはやめて、後ろも可愛がってごらん。
そう、そそのかすように花門がひくつく。
「はあ……なんだよ、もぞもぞする感覚」
免疫のない躰には酷なまでのレベルで媚薬が猛威を振るっているのだ。指を突っ込んで、ぐちゃぐちゃとかき混ぜるくらい、拡大解釈すれば応急手当の範疇 に収まるかもしれない……。
「って、思う壺にはまったとこを盗撮されるとかしたら人生が詰んじまうって」
ナディール王国云々を鵜吞みになんか、できるものか。監視カメラが、どこかに仕かけられていないとも限らない。
テーマパークで遊んでいるときの六時間は、あっという間に経つ。引きかえ、留め金および欲望との闘いに費やす六時間は時を司る神さまがサボっているように、のろのろとすぎていった。
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