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第2章 いたぶられて

    第2章 いたぶられて 「退屈だあ……」  と、ぼやくのは通算何回目だろう。獄舎、独房、牢屋、監獄──等々。呼称は、どうでもいい。どこかに閉じ込められてから、たぶん半日以上が経過した。  籠城事件が発生した場合は、しかるべきタイミングでSATが突入してカタがつく。だが志木が解放される見込みは、今のところゼロだ。  アマゾンの奥地に住む原住民ですらTシャツにジーンズ姿がスタンダードのご時世だ。対して裸体にシーツを巻きつけたっきりの恰好は、人間の尊厳を踏みにじられたようで心が折れる。 「折れたら、おしまい。打倒、なんちゃって獣人、よし!」  エイエイオー、と拳を突きあげるたび、しごきすぎて赤むけているようなペニスがひりひりするのは、ほんのご愛嬌だ。  夜が明けるのを待ちかねて〝檻〟まがいのここを、しらみつぶしに調べるなかで窓を発見した。ただしベッドを踏み台にしても届かない高さにうがたれているうえに、格子が嵌まっている。よって天窓から脱出するのは、あきらめざるをえない。  ちなみに〝檻〟の面積は、ざっと二十畳程度だ。ベッドとテーブル、それから安楽椅子が一脚、ぽつんぽつんと置かれているのみで、尚更だだっ広く感じる。  カーテンで仕切られた一角に、ちゃんと湯が出る浴槽(クラシカルな猫脚の)と、便器が据えつけられているあたり、行き届いているったら。  天窓と反対側の壁の、床すれすれの位置に跳ね上げ式の蓋が設けられている。外から鍵がかかっている蓋が、体内時計的には早朝と正午すぎに二回、開いて、お盆がそこを静々とくぐった。  そういうやり方で食事が提供されると拘置所感が強まって、いっそうムシャクシャする。 だいたい暇でしょうがないのだ。  テレビもラジオも漫画本の一冊もないところで、どうやって退屈をまぎらわせばいい? スマートフォンでYouTubeを視聴……したくても当然のことながら没収されている。  いきおい、威張りくさった顔が目の前にちらつく。アルフォンソ・デュモリーと名乗った、いけ好かない野郎のツラが。  年齢(とし)は……おそらく三十代後半。(かそ)けし月の光のもとでさえ、ただものじゃない、という強烈な印象を受けた。嘘か真か、公爵とうそぶいたのは伊達じゃない、と思えるほど。  容貌のほうも、きりっとしたイケおじと認めるにやぶさかでもない、かもしれない。   ただ、獣人が我が物顔でのし歩くパラレルワールドに迷い込んでどうのこうのは、やっぱり眉唾くさい。  耳も尻尾も結局、獅子のそれをモチーフにしてこしらえた紛い物じゃないのか。監禁場所にしても廃村に残っている倉庫──あたりが正解のような気がする。荒れ果てた村の中なら、異様に闇が深いことにも説明がつく。

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