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第14話

 ピッチャーの注ぎ口をなぞる指に視線が吸い寄せられる。巨軀に似合わず、すんなりしたあの指は、どんなぐあいに乳首をつまむ?  ハッと我に返り、カーテンで仕切られたほうへ後ずさる。揶揄を含んだ笑い声が絡みついてくる。 「先ほど運ばせた飲み物は美味であったか」  慎重にうなずき返した折も折、ゆらゆらとマントが安楽椅子を掃きあげた。  巨軀が迫り来る。志木はなおも後ろ歩きでずれていき、だが床の継ぎ目に(かかと)が引っかかる。檻にはびこりゆく闇はアルフォンソの味方をして、こちらは(めしい)る。もたもたしている間に、息づかいが感じられるまでに彼我の距離が縮まった。  咄嗟に横っ跳びに飛びのいた。シーツがたるみ、踏んづけてよろめく。すかさず尻尾がシーツの中に忍び入り、房飾りのようにそよぐ先端が、つつ、と柔肌を撫であげる。 「薄汚い尻尾で、さわるな!」 「ほう。では、があられもない様相を呈するのは嫌悪感ゆえと言い張るのか」  ペニスをかすめた尻尾を摑み、引っぱった。  そして志木は凛と背筋を伸ばした。 「弟の仇を討ちたきゃ、相手は珍獣マニアだろうが。八つ当たりしてんじゃねえよ、エラぶった外道が!」 「いつまで減らず口を叩いていられるか見物(みもの)であるな。飲み物には、わたしが自ら調合した媚薬をひと垂らし。おっつけ遅効性のあれが真価を発揮して……」  双丘を鷲摑みに、ぱっかりと割り開かれた。 「ここは踏み荒らされたいと(こいねが)う。情欲の(もと)となるものが殻を突き破ったころだ」 「まあた媚薬がどうのって馬鹿のひとつ覚えかよ。ゲス……ぅ」  嘲笑を浴びせたのが、ずんと後孔に響いた。 「進んで寝台に横たわるのであれば、よし。従順さに免じて手心を加えてやらぬでもない。刃向かう場合は、これの出番だ」  前夜、囚人(めしうど)の気分を味わわされたベルト状の足枷が鼻先に突きつけられた。 「命令に従うほど落ちぶれちゃいない」  そう、ケンツクを食わせて足枷を払い落とした。一方で、自分の迂闊さが呪わしい。媚薬入りの精油のせいでヒィヒィ言う羽目に陥ったのは記憶に新しい。あの一件を教訓に食事乃至(ないし)飲み物を口にするときは、注意を怠るべきではなかった。  獣人と違って夜目が利かないぶん、はなから不利だ。壁伝いに逃げるのがやっとのこちらに引きかえ、アルフォンソはつかつかと歩み寄ってくる。  ひらりと翻るマントをかわしても、それは陽動作戦のうちで、即座に巨軀が立ちはだかってベッドへと追い詰められていく。  ただでさえ媚薬が勃起中枢に波状攻撃を仕かけてくるせいで、やんちゃモードのペニスが邪魔をする。走りにくいったら、ない。

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