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第15話

 琥珀色の双眸が冷ややかに光り、志木を射すくめる。通常のおにごっこなら鬼にタッチされても「ちぇっ」で、すむ。事、檻の中では身の破滅。  わるがしこい猫が前肢(まえあし)で押さえつけていた小鳥をわざと放し、羽ばたいたところに再び襲いかかるも同然のやり口だ。  アルフォンソはベッドの傍らにたたずみ、しばらくのあいだ志木が逃げ回るに任せておいた。そして焦るあまり足がもつれたと見るや、なかばはだけたシーツもろとも志木を引き寄せた。 「わかった、これでいいんだろ」  降参と、しおらしくうつむいた。まともにぶつかっていっても体格的に敵わない以上、起死回生を図るには、哀れっぽくふるまって油断を誘うのが正解──そう計算したうえでの偽装だ。     隙をついてアルフォンソに体当たりをかまし、彼がふらつくと同時に必殺の一撃をみまう。それでも力ずくでおれを押し倒しにかかったときは、金属製のピッチャーでぶん殴っても正当防衛が適用されるよな?  闘争心が相まって体温が上昇した結果、秘処まで熱っぽく疼くのは気のせいで片づけた。  シミュレーションが完璧でも、経験値の差が勝敗を左右する。アルフォンソは志木の背後に素早く回り込むなり、しなやかな肢体をふたつ折りに、やすやすと担ぎあげた。  シーツがすべり落ちて、ふるふると切なげに揺れるペニスがまろび出た。 「下ろせ、卑怯者! 下ろせっ!」  引きちぎる勢いで尻尾を握りしめても、あっさりベッドの上に投げおろされた。すかさず覆いかぶさってこられた瞬間、はにかんだふうに蕾がひくついた。 「おまえの花は試みに挿れてみた指を、生娘そのまま頑なに拒んだ。楚々として、性奴の心得を説く意味でも咲かせ甲斐がある」 「キモっ! いっぺん死ね、くたばれ!」  (まなじり)を吊りあげ、こうやって憎しみをぶつける。太々しい(おもて)をめがけて唾を吐きかけたのだ。  一矢を報いるどころか、いとも簡単にねじ伏せられてしまった自分自身に腹が立つのか。それとも精神(こころ)を裏切って媚薬の罠にかかりたがる躰のほうが、より憎らしいのか。

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