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第16話

 第三の腕のごとく、尻尾は自在に動く。今しも谷間を這い進み、窄まりをくすぐる。 「弟の復讐だとかにかこつけて犯るのが目的じゃねえか。チンカス野郎」 「ヒトの分際で口を慎むがよい。誇り高き獅子族の矜持(きょうじ)を傷つけられたうえ死出の旅に出た弟の魂を慰めるためにも、おまえを辱める。それが兄の務めなのだ」 「へええ、野蛮な獣人にも屁理屈をこねるだけの脳みそと兄弟愛はあるんだ」  へえ、ふぅん、と皮肉たっぷりに繰り返している途中、食事などを差し入れる蓋が開閉した。  今度はランタンが届けられた。ささやかな明かりでも、ここは外界から隔てられた檻。 ガラス張りの内側で蠟燭(ろうそく)の炎が揺らめくと、夜空を焦がす稲光ほどにも眩しい。 目が(くら)み、その一瞬が命取りになった。 「えっ? やめろ、何をするんだ!」  てきぱきの上にも、てきぱきと後ろ手に志木を(いまし)めおおせるまで数十秒足らず。  今宵、用いられた紐はアルフォンソが(ふところ)から取り出したもの。金糸、銀糸を()り合わせたそれが、裸身に彩りを添える。  ころんと引っくり返されて、志木はうつ伏せに転がった。おれは鉄板の上でジュージュー言っている、お好み焼きか。ソース増し増しでよろしくぅ、などとチャラけてみても身がすくむ。 「うむ、ヒトといえど、おまえはなかなかに美しい。綾絹の飾り紐が白い肌に映える」 「ゲロ科白はいいから、ほどけ!」  可動域の限界ぎりぎりまで下肢が割り開かれた。バランスをとるためには、どちらかの肩で上体を支え、あまつさえ腰を掲げる形になってしまう。  恥辱にまみれたポーズだ。にもかかわらず、うっすらと蜜がにじむ。  秋の()は長い。嬲られる者にとっては永劫に等しく、かたや君臨する側にしてみると瞬く間にすぎゆく。  舞台は整った。悦虐という(ころも)を贄にまとわせたうえで演じられる、一幕ものの。

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