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第18話

 と、襞を巻き取りながら指が抜け出ていった。ホッとした反面、がっかりするものが小匙一杯ほどないことも、ない。ごんごんと頭をマットレスに打ちつけて自分を罰し、すると今の今まで隘路(あいろ)を泳いでいた指が唇を割りにかかった。 「性奴の、(しとね)での作法のひとつだ。都度、舐めて濡らす」 「ふざ、けんな……うぐっ!」  つい罵声を浴びせたのが運のツキ、指が歯列という関所を突破した。〝自分の味〟にむせて、涙目で斜め後ろを睨む。  想像するだにジンマシンが出るようでも、捨て鉢な気分になる。そのへんのスケベおやじさながら、アルフォンソが欲望をむき出しにして、がばっと襲いかかってくれば、穴を掘って隠れるまで嗤ってやれるのに。  しかし爵位を持つ男は残忍で、にもまして狡猾だ。マントを脱ごうともしないで、扇形に広がるに任せておくさまは、志木を調教するなど荒馬に鞍をつけるよりたやすい、と暗にほのめかしているようだ。  ズボンの中心にしても、せり出す以前の問題で、の輪郭に沿ってわずかに皺が寄る程度。ペニスはおろか乳首にもちらとも触れないさまは、性奴の使い道など(あな)にあるのみ、と志木を殊更に貶める。  そう、情熱の欠けらも見せず後孔を愉楽の壷に作り替えることにのみ専念する。  剪定する枝を吟味して、鋏を入れる庭師のごとく。 「むぅうう、ん、んんん……っ」 〝舐めて濡らす〟と命じたのは方便にすぎず、指は、花筒になぞらえた口腔を隈なく荒らす。たとえば上顎に狙いを定めると、ピアノを弾くように強弱をつけてこすりあげる。  機が熟し次第、淫花を手折る。その予告編のように、志木が嘔吐(えず)こうが口中をねっとりと犯したすえにアルフォンソは大きなため息をついてみせた。 「指に唾液をからめるという初歩の初歩でもたつくとは、おまえは恐ろしく不器用であるのだな。まあ、今宵は大目に見る。にお誂え向きになるよう、併せて(あるじ)をもてなす素地を作ってやるゆえ、しっかり呑み込むのだ」 「いいかげんに、しろ……ああっ!」  志木は膝をにじらせて、ずりあがった。人差し指と中指に薬指まで加わって、玉門を押し広げていく。挿入(はい)りっこない、無理だ。  涙ながらに訴えるように襞が軋めき、ところが桜でいえば五分咲きにほころぶ。ひとたび弾みがつけば、おずおずとだが貪欲に指を食みくだく。 「あっ、ひぃ……きつい、いやだ、きつい!」  マントが蛇腹状に皺む。覇権争いを繰り広げるように、三本の指が先を競って内壁にじゃれつくたび、エクスタシーの高みへとつれ去る波が押し寄せてくる。

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