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第21話

 呼吸(いき)さえ、まともにできない。笑み割れたザクロの実のごとくギャザーが伸び広がって、向こう側が透けて見えるようだ。  猛りを押し返すべく狭まった肉の環をかき分けて、一ミリ、また一ミリと侵攻してくる。微かな風がランタンを撫でるのにともなって、双頭の生き物さながら、ひと塊に蠢く影が濃淡を描く。  と、唐突に紐がほどかれた。両手をマットレスについて姿勢が安定するぶん楽になった、かといえば、逆だ。もとより腰をがっちりと抱え込まれたままでは、つながりを解くに解けない。  しかも四つん這いになる形に持っていかれたのは、企みがあってのこと。えぐり込む角度が変わったせいで、 「ぅ、あああ……ああああっ!」  ずぶり、ずぶりと弾みがつく。〝アルフォンソ〟が、(のみ)で彫ったように秘道に刻まれていく。  志木を屈服させる歓びが、尻尾を黄金色(こがねいろ)にきらめかせる。 「小生意気なおまえに反して、こちらは慎み深い。触れて確かめるがよい。わたしに恭順の意を表して八割がたを頬張ったぞ」  右手が握り取られて、後孔をまさぐってみるよう強いられた。ずっぽし、といったぐあいに呑み込んでいるさまに、ふっと意識が遠のく。  非道な扱いを受けても命乞いをしないのは、せめてもの意地。志木はかすみがちな目で、あたりを見回した。  檻は、もちろんインターネットと接続などしていない。いわゆるハメ撮りをSNSで拡散される恐れがないのは幸いだ。デジタルタトゥーは時限爆弾並の威力で、人生を破壊しかねないのだから。 「さて、いささか手こずりはしたが、このひと突きで番い終える。しかと受け止めよ」 「抜け! てめえの腐れチンポ細切れにして、ばらまいてや……くっ、ぁ、あああーっ!」    レトロなラムネは瓶のくびれた部分にビー玉が入っていて、がぶ飲みしづらい構造が、ある意味売りだ。何かの拍子に(くだん)のビー玉が砕けたのにも似て、(つか)えていたものが弾け飛んだふうだ。  掘削機が堅い地層を掘り抜く勢いで、ずん! と根元まで玉門をくぐった。そうなると、あとは勢いを増すばかり。やがて切っ先が最奥に達した証しに、(こわ)い毛が双丘を掃く。  月の光が天窓から射し込み、マットレスを格子の形に、いびつに区切る。  志木は(くずお)れていきながら、手首を取り巻く紐状の痣をぼんやりと眺めた。民法の講義をふつうに受けたり、学園祭の準備でふつうに盛りあがったり、アオハルを謳歌していたおれは前世紀の遺物になり果てた。  ふつうの生活? そんなものは海に落としたコンタクトレンズと同様、取り戻せない。

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