24 / 36

第4章 捨てられて

    第4章 捨てられて  シーツを縦に裂く。数センチの幅で何本も。それで縄を()い、天窓の格子をくぐらせたうえで輪っかをこしらえたあとは、頭を突っ込んでぶら下がるだけ。  ケリのつけ方としては無難な線だが、貧乏くじを引かされっぱなしでは癪にさわる。即席の縄をアルフォンソの首に巻きつけて、息の根を止めてやろうか。 「っても、おれ。ゲーム以外でバトルった経験ないもんなあ……」  そもそも柴犬とグレートデーンほどに体格差がある。見事アルフォンソを(くび)り殺すどころか、返り討ちに遭うのがオチ。  シーツを丸めて放り捨てた。 「あー、マックが食いてえ。ケンタも、吉牛も、二郎系のラーメンも」  きちん、きちんと供される食事は〝素材の持ち味を活かしたナンチャラカンチャラ〟の類いで、ファストフードに慣れ親しんだビンボー舌には物足りない。とはいえ、囚人同然の身。飢えに苦しむことがないだけマシなのか。  やりたい放題に弄ばれても耐えうる体力を維持する意味でも……? 夜な夜な辱められて、くやし涙に暮れても、過労死するまでブラック企業でこき使われることを思えば天国と割り切ってしまえ……と?  安楽椅子を蹴り倒した。〝檻〟に閉じ込められたっきりでストレスが溜まりまくりだ。この生活が後一週間もつづけば、気が()れるのは確実だ。  ランタンおよび、蠟燭(ろうそく)とマッチが支給されたおかげで明かりの問題は解決した。アルフォンソは慈悲深い、と感謝すべきなのか。  性奴の寿命など恐らく短い。飽きられて、お払い箱になったとたん路頭に迷う。 「ホームレスに落ちぶれても、あのド畜生と縁が切れたらせいせいするでしょうし?」  よっこらしょ、と安楽椅子を起こし、すると内奥が甘ったるく疼く。獣人は総じて絶倫なのか、抜かずの三発を決めるのもお茶の子さいさいで、つき合わされるこちらはたまったものじゃない。  忌ま忌ましい余韻がくすぶり、この余韻がもしも情欲へとすり替わることがあれば、おれは、おれを軽蔑する。  確かに、そして不覚にもメスイキとやらでめくるめいてしまったのは事実だ。だが、あれは男子に特有の性感帯へ集中攻撃を受けたがゆえの生理的な反応にすぎないのだ。  性奴という名の玩具に卑しめられている間に、秋が深まりゆく。枯れ葉が風に乗って運ばれてきて、天窓に張りついた。黒目がちの目に羨む色が宿る。大空を(かけ)るのは贅沢な望みだとしても、外を歩き回る、その自由が欲しい。  と、衣ずれが鼓膜を震わせた。ぎくりとして振り向くと、どこからともなく現れたアルフォンソが、今しも歩み寄ってくるところだ。

ともだちにシェアしよう!