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第25話

「あんたがいつも、こっそり出入りするのに使ってる隠し扉をとうとう見つけてやったし。北側の隅っこの壁に微妙な継ぎ目があるもんな。あそこがクサいって、前っから睨んでた」  と、カマをかけてもポーカーフェイスではぐらかされる。逆に、こんな嫌味を言われた。 「性奴の端くれたる者、わたしをにこやかに迎えるのが務めのひとつであることを憶えよ」 「陰キャに愛想よくしろって求めるだけ無駄」    先ほど作りかけていた縄を、さりげなくたぐり寄せる。これを武器に一発勝負に出るなら、敏捷にアルフォンソの背後を衝く点に成否がかかる。  ただし勝ち目はないうえ、ある意味、クーデターが失敗した結果は推して知るべし。志木は、ため息交じりに仮の縄を投げ捨てた。そして、殊更にっこり笑った。 「日も高いうちから足をお運びいただくとは光栄に存じます。で? 夜通し犯っといてまだ足りないとか言わねえよな。おれは弾切れ、あそこもひりひりする。なにぶん……」  一拍おいて、皮肉たっぷりにつづけた。 「性奴の素質なんかゼロの、ポンコツ野郎ですし?」 「出かける。供をいたせ」   供、と鸚鵡返(おうむがえ)しに繰り返した。安楽椅子を挟んで対峙する一方で、目まぐるしく考える。  アルフォンソはどんな魂胆があって、妙ちきりんなことを言いだしたのだろう。閉塞感が一転して解放感を味わったのも束の間、別の檻へとつれていかれて、へたり込むさまを肴にグラスを傾けるつもり、だとか?   とはいえチャンスはチャンス。隙をついてかますのは、ありかもしれない。 「てか、素っ裸でうろつき回る趣味はないんですけど? 猿回しの猿だって、ちゃんちゃんこくらい着せてもらえるんだぞ」  これのおかげで、かろうじてフリチンは免れている、という腰に巻いたタオルをつまんでみせた。  その点、抜かりはない。床すれすれに設けられた跳ね蓋が開いて、衣類一式をすべり込ませた。  アルフォンソは生成りの、刺繍がほどこされたシャツをまとい、ゆったりしたズボンを組み合わせるという装いだ。  かたや志木にあてがわれたものは、ユニクロ的なシャツにチノパンといたってシンプル。ただし獣人が仕立てた洋服とあって、チノパンには尻尾を通すための工夫がなされている。  ともあれ、かれこれ一週間ぶりにまともな恰好をすると人心地がついたのに対して、 「馬子にも衣裳と、いちおう褒めておこう」  アルフォンソは、にこりともせずに言った。そして志木に目隠しをした。  目出し帽をかぶって人質に接してきた誘拐犯が、身代金を奪うのに成功したとする。監禁場所を特定されないよう用心したうえで人質を解放するみたいに。

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