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第28話

「弟を喪った哀しみは癒えぬ、弟を絶望の淵に追いやったすえ命を奪った者どもへの憎しみは永久に消えぬ。しかし連帯責任を理由に、おまえを責め苛んだところで虚しさがつのるばかり。よって調査隊を派遣しても発見するには至らぬ隠れ里を探し当てて時空の狭間に落ちた同胞(はらから)と暮らすなり、放浪の旅をつづけるなり、好きにするがよい。では、達者でな」  別れの挨拶に代えて、というふうに尻尾が打ち振られた。アルフォンソは金髪をなびかせて(きびす)を巡らす。 「ヒトの集落? 達者で……?」  志木は呆然と呟いた。ゲームのルールが途中でいきなり変更になったようで、処理能力が追いつかない。ぼさっと突っ立ったままなのをよそに、馭者(ぎょしゃ)が手綱をゆるめた。からからと車輪が歌い、馬車がすべり出した。 「えっ? ちょっ、ちょっと待てよ!」  我に返り、あわてて後を追った。だが馬車は停まるどころか、号砲が鳴り渡ったように、ぐんぐん速度をあげる。  アルフォンソを乗せて。  ひた走りに走っても追いつかない、逆にどんどん引き離されていく。やがて馬車は視界から消え去り、(ひづめ)の音はカツとも聞こえない。息が切れて立ち止まった。土埃がもうもうと舞うなかで、へたり込んだ。 「マジか……」  アルフォンソはきれい事をあれこれ並べていたが、とどのつまり飼うのが面倒になった猟犬を山中に置き去りにするのと同じことをやってのけたのだ。おまえは用ずみだ、ガラクタは道ばたで朽ちるのが似合いだ──と。 「おれの価値って百均のスリッパ並?」  ほろりと、くやし涙がこぼれた。ぐいと拳でぬぐい、すっくと立ちあがる。通りすがりの行商が、耳欠け尻尾欠けの突然変異か、と好奇心丸出しで見つめてくるさまに、油田に火を放ったかのごとく怒りが爆発した。 「あの……鬼畜野郎が!」  鬱憤晴らしに、おれをさんざんな目に遭わせただけでは飽き足らず、最後の最後まで虚仮(こけ)にしてくれて。公爵でござい、とスカしていても、獣人は根っこの部分は酷薄な(けだもの)なのだ。 「えっちらおっちら山を登って、都市伝説みたいなヒトの集落を捜してみろって? 地図もコンパスもないのに、どうやって? 野垂れ死ぬのがオチじゃんか……」  と、くれば王都に引き返すのが正解だ。垣間見た、泥に埋もれてもまばゆい真珠のように白く輝く屋敷。これだけ大きな手がかりがあれば、公爵邸に乗り込んでいくのはたやすい。  そう、アルフォンソをぶん殴って血反吐の海に沈めてやらないことには腹の虫がおさまらない。

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