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第31話

 たとえば午前零時の歓楽街。物騒なオーラを振りまくグループがのし歩いているのを見かけた場合は、ソッコー且つ、こっそり回れ右をする──鉄則だ。  それと同じ感覚だ。鉢合わせするとヤバい連中がうろついている、と第六感が告げる。  獣人は嗅覚が鋭い。あっさり見つかったうえ囲まれた。さらに、物干し台と竿を組み合わせたような藁掛(わらか)けのそばへ引っぱっていかれた。  令和の日本風でいうと半グレの三人組が、それぞれ三角形の頂点に立つ位置取りで逃げ道をふさぐ。太っちょ、やせっぽち、ひげもじゃ、と外見的にはバラバラでも尻尾の形はそっくり。三人とも豹族だ。  アルフォンソ曰く「ずるがしこくて荒くれぞろい」。よりによって、という種族の網にかかるなんて盛り沢山にも程がある。 「邪魔なんで、通してくれる」  志木は毅然と三人組を睨み返した。ハッタリをかましてこの場を切り抜け、あとは一目散に逃げるに限る。もっともゲラゲラと嗤われたが。 「『とびっきり珍しいのが、ほっつき歩いてる』。なんつうのは、てっきり粉ひきの大将のホラ話だと思いきや」 「いちおう確かめにきてみりゃよ、こいつはびっくり上玉と『コンニチハ』」 「カモがネギしょって、ランランってなあ。男娼窟、見世物小屋、解剖狂いの学者先生。買い手はよりどりみどり、礼金はたんまり」  にやにや、うひひ、ぐふぐふ。ハゲタカが三羽、屍肉(しにく)をがっついているような光景だ。おおかた水車小屋の(ぬし)が、顔だちはああで、年恰好はこうで、と志木の目撃談を酒場あたりで吹聴したのだろう。  もうけ話を嗅ぎつけて、三人組はすっ飛んできたわけだ。稀少価値が高いヒトを捕獲して売り飛ばすチャンスに恵まれるのは、一等、前後賞合わせてン億円の宝くじに当選するようなものなのだから。  三人組が、じりじりと三方向から迫りくる。志木は視線を走らせた。小川を渡って(あし)の原を突っ切る。もしくは街道めざして麦畑を駆け抜け、幌馬車にでも潜り込む。こいつらを撒いて逃げきる確率が高いのは、どっち?  空が銅色(あかがねいろ)と藍色のグラデーションを描き、ふくよかな香りが麦畑から立ちのぼる。豊かな眺めだ。かたや藁掛けのそばでは、卑俗な場面が繰り広げられる。  太っちょが半歩、前に出た。やせっぽちが小川の(ほとり)を行ったり来たりする。ひげもじゃは小道に立ちはだかった。志木を挟み撃ちにする布陣を()いた、もようだ。  尻尾が三本、舌なめずりするさまを思わせて揺らめく。ゲッと呻き、それでも志木は三人組を等分に()め据えながら後ずさった。藁掛けの柱に背中がぶつかり、振動で横木がから浮く。

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