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第32話

「礼儀正しく、とっ捕まり願うのは面倒くせぇ。いっせのせで飛びかかっるのは、どうよ」  太っちょが指の関節をパキパキ鳴らすと、 「で、売り渡す前にいっちょ味見する、と」  やせっぽちが腰をカクカクと振り、 「悪かねえな。ん、じゃあ公平にいこうや」  ひげもじゃがニタニタと後を引き取る。そして三人組は、大まじめに犯る順番を決めるためのジャンケンをはじめた。  いまだ! 志木は素早く横木を摑み取った。藁くずをまき散らしながら、しっかり握りなおすと、槍を繰り出すように地面を蹴り、 「高校時代は剣道部だったんだ、ナメるな。どぉおおおおおおおおうっ!」  いちばん手前にいる太っちょめがけて突進した。胴はがら空き、的は大きい、イケると思った。だが横木の長さは竹刀の倍。振り抜きそこねて、さらに窪みにつまずいた。蹈鞴(たたら)を踏んだところを、ひげもじゃが素早く羽交い締めにする。 「ヒトってのは鹿族の娘っ子よか、やわっこいわ、いい匂いがするわ、チンポがびんびん。こりゃあ、のほうもさぞかし」  脂じみた(ひげ)がうなじを掃きあげ、びっしりと鳥肌が立った。志木はむこうずねを狙って蹴りを放ち、 「キモい、さわるな、放せ!」  だが、がっちりと押さえつけてくる腕は鉄輪(かなわ)のごとくびくともしない。おまけに爪先が浮くと左足をやせっぽちが、右足を太っちょが掬い、股裂きの刑に処すように、あっちとこっちへ引っぱる。 「イテッ、足がもげる、っていうか三人がかりは卑怯だ。一対一でガチの勝負だ!」  志木が猛然と身をよじっても、いたぶる側にとっては、釣りあげた魚を活け造りにするのと同様の面白みが増すだけ。  アルフォンソに花を散りしだかれて負った、心の傷がカサブタで覆われるまでいかないうちから再び絶体絶命のピンチ? しかも今度は寄ってたかって……という展開が待っている? 「ほっぺたは、ほんのりピンク。果たして乳首もピンクか、ご(ろう)じろ」  やせっぽちが仰々しく一礼した。それから折りたたみのナイフの刃を起こし、しゅっ、とシャツの前を切り離す。  すべらかな肌と、可憐なアクセントを添える乳首。牧歌的な風景の中であらわになった、それらは、まさしく猫にカツオブシ。ごくり、と生唾を呑み込む音かけることの三が、おどろおどろしく響いた。 「見世物じゃないぞ、見るな!」  粘っこい視線が胸元を這い回ると、今にもいっせいに襲いかかってこられそうで生きた心地がしない。  だいたい、と志木は思った。元の世界では満員電車で揉みくちゃにされているときでも痴漢に遭った経験はないのに、獣人どもは当然のごとくと決めつけてかかる。もしかすると性奴のイロハなるものを叩き込まれた結果、変なフェロモンが出ているのだろうか。

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