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第33話
依然として羽交い締めに押さえつけられた状態で、わざとうつむき、すんすんと洟 をすすってみせた。逆効果かもしれないが、同情を買うように努めて拘束がゆるめば、しめたもの。まず、ひげもじゃのタマを蹴りつぶす一発を炸裂させて……、
「うう、我慢できねえ。さくっとハメて天国を拝ませてもらうぜ」
太っちょが涎をぬぐう真似を交えながら自身を摑み出した。妙にずんぐりした、それを。
「グロいものをしまえ、目が腐るう!」
絶叫がほとばしった直後、
「王家の一員たるアルフォンソ・デュモリーの性奴に狼藉を働くとは不届き千万。尻尾を切り刻まれる覚悟があってのことであろうな」
叱声が空気を凍りつかせた。命令を下すのに慣れた立場の、威厳に満ちて。凄腕の狩人そのまま、完全に気配を殺して忍び寄ってきていた。
いつの間にか、アルフォンソが葦 の原を背にして立っていた。金色 のオーラが巨軀をいっそうたくましく見せて、殊に尻尾は宝剣の輝きを放つ。すさまじい目力で三人組を射すくめておいて、小川をひと跨ぎにこちらへ渡った。
「〝白馬に乗った王子さま〟の登場かよ」
と、毒づくのと裏腹、ホッとするあまりへたり込むようだ。あわや姫君の窮地、というふうな場面で颯爽と現れるなんてカッコよすぎてずるい、と思う。その反面、抱き寄せられたら恥も外聞もかなぐり捨てて、しがみついてしまうかもしれない。
三人組は、おろおろ顔を見合わせた。ヤバくね? 逃げるが勝ちか、いや男がすたる。
「こっ、こいつをかわいがるのは早い者勝ちだかんな。横入りしようたって、そうはいかねえ。王族だのなんだのとフカしやがって、さっさと去 ねさらせ」
などと、ナイフをちらつかせる太っちょに、やせっぽちがゲンコをみまった。
「どアホ! いまの国王の、戴冠式のあとの祝賀パレードでよお、お貴族さまの騎馬隊を率いてたのが、こちらの御方だっただろうが。他人の空似じゃねえ、本物の公爵閣下の逆鱗に触れて牢屋行きなんてのは桑原、桑原」
「狼藉なんか、めっ、滅相もない。ヒトを見つけたのに興奮して、ちょっくらからかっただけでして……」
ひげもじゃがペコペコするにつれて、豹族の尻尾が三本そろって垂れ下がる。アルフォンソがとどめを刺すように睥睨 すれば、三人組は我先にと走り去った。
せせらぎが、さらさらと歌う。つっかい棒が外れたように、志木は岸辺に崩れ落ちた。危機一髪のところに駆けつけてくれて、ありがとう。しゃしゃり出て、お節介。平民相手に威張りくさって、みっともない──等々。
この場にふさわしい科白を選びあぐねて口ごもり、ただ仏頂面を振り仰ぐ。たちまち衿ぐりを鷲摑みに引きずり起こされた。
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