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第38話

 裏を返せば「油断大敵お命ちょうだい」の巻──だ。  志木は人生最大の試練に立ち向かう思いで銜えなおした。ギロチンのミニチュア版という切れ味を秘めた歯列のあいだに、サオをこじ入れた時点でジ・エンド。嚙みちぎって踏みつぶして、ピイピイ泣きわめくところを拝んでやる、ざまあみろ。  前髪を鷲摑みに仰のかされた。 「何事によらず、わたしは倍にして返す主義だ。過去にわたしを暗殺しようと企てた者がいたが、どんな末路が待っていたか知りたければ教えてやろう」  獅子の耳の、金褐色の毛が逆立った。志木が発する殺気を感じて牽制するとともに、暗に脅しているのだ。  妙な真似をしようものならイキまくりで干からびるまで嬲り抜く──と。同じ折檻を加えるにしても、おまえの場合は悦虐の渦に巻き込まれるほうが、より堪えがたいはず。  白バイ的なものが張っている区間に差しかかったのだろうか。がくん、と馬車のスピードが落ちた。  志木は扉を盗み見た。この、のろのろさ加減なら飛び降りてもかすり傷程度ですむはず。言いかえるとチャンス到来。さくさく逃げて、今度こそヒトの集落がゴールの冒険旅行に出かけよう……どうせ、たどり着けっこないのに? 「うぐ……っ!」  初々しい失敗、と大目に見てくれてもバチは当たらない。つい、うっかり歯を立ててしまったとたん乳首をひしぐ。ペナルティを科しがてら、いじりやすい大きさに育てて一石二鳥、とばかりに。 「応用力を養うためにも、男根のあやし方の基本をしっかり学ぶのだ。さしあたって頬をすぼめ、やわやわと刺激を与える。返事は」  デカマラで口をふさがれている状態で「はい」も「いいえ」もあるか、くそったれ! 「口淫を習得して初めて、曲がりなりにも性奴を名乗る資格を得る。じきじきに練習台を買って出てやっているのだ、名誉と心得よ」  へいへい、身に余る光栄で涙がちょちょ切れますよぉ、だ。志木はストレートに毒づく代わりに、よろけたふりでむこうずねをこづいて返した。厭なことはさっさとすませてしまいたい一心で、たどたどしく舌をつかう。  たかが性器だ、苦手なレバ刺しを皿いっぱい食べろと強要されることを思えば、しゃぶるくらいどうってことない。ただ……どっしりと張りだしたエラが、上顎を掃きたててくるのが困る。そこは自分の舌でまさぐっても、くすぐったいポイントなのだから。

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