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第39話

 宿場は近い、と道しるべが示す。旅人をいざなう篝火が空の一角を(あけ)に焦がし、幻想的な光景を描き出す。  だが志木は、この瞬間にペガサスが馬車の屋根に舞い降りても、気づかずじまいに終わっただろう。胸くそ悪いミッション──アルフォンソを吐精へと導く──をやり遂げたら、つぎは尻尾の番だ。因幡(いなば)の白ウサギよろしく毛を全部むしって、粗塩をすり込んでやる。 「だらだらと、ねぶるばかりでは芸がない。興醒めして萎えたものを再びみなぎらせるのは、おまえには荷が勝ちすぎるであろう」  そう、うそぶいて、うなじに沿えた掌を小刻みに動かす。むず痒いと感じるか、感じないかの微妙なタッチで。官能を刺激する技に()けた、自信にあふれて。 「緩急をつけて裏の筋を吸いしだく、鈴口をついばむなど自分なりに工夫を凝らしてみよ」 「注文が多い……わぁっぷ!」  荒々しく攻め入ってきたのが、舌を突きのめす。志木は嘔吐(えず)くかたわら苦い笑みを洩らした。巨根が気道に栓をする形になったすえの窒息死。で、きっとバズる。  それはお仕着せだが、馭者がいいを着ていることから上客と踏んだのだろう。宿場のとば口に差しかかると、さっそく呼び込みがすり寄ってきた。無視して、馭者は馬の鼻面を王都のほうへ向けた。  ケチんぼ、と呟いて志木はふて腐れ気味に穂先を吸いたてた。苦行に努めるこちらに対して、いたわりの精神でジュースの一杯もおごって太っ腹なところを見せろ。  もっとも呼び込みに内部(なか)を覗き込まれていたときは、相当恥ずかしいことになっていた。 「やれやれ、不器用な舌だ。陶酔境へ導かないかぎり、極めるには至らぬぞ」 「うるせ……ッ!」  けなすより褒めて伸ばすのが令和の主流だ、と言いたい。座席と座席の、窮屈なスペースで膝立ちになって股ぐらに顔を伏せるのは、体勢的にしんどいのはもちろん、心が折れる。少しでも負担を減らすつもりで、捧げ持つ形に切り替えた。  とたんに吐き出した。至近距離で改めて見つめてしまったそれは、赤黒くてらてらと光って猛々しい。強制されたがゆえ、とはいえグロいものを銜えた自分を「よしよし」と撫でてあげたい。 「勝手に休む癖をつけるなど(まか)りならぬ」  乳首を揉みつぶされて、しぶしぶ舌を巻きつけなおす。これが特大で肉汁たっぷりのフランクフルトなら、喜んでかぶりつくのに。 「そうだ、強弱を加減するのも上達につながると考えよ」 「ん、む……」  夜をついて旅路を急ぐ駅馬車と時折、すれ違う。おれも乗せてほしい、と憧憬(しょうけい)の眼差しを向けるうちに、本気でムカついてきた。  性奴の作法云々ともっともらしい理屈をこねる裏で、アルフォンソは新手のいたぶり方を研究中に違いない。その手始めに、恐らく射精感をコントロールしている。

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