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第42話

 そう、花筒にひっそりと在る(さね)を遠隔操作でつつきのめすように……。  馭者が馬を元通りにつないだ。志木はぴたりと扉にくっついて、なるべくアルフォンソから遠ざかった。  口淫せよ、との下劣な命令に従ったことじたい、みすみす黒歴史に新たなページを加えたに等しい。ましてや小窓を一枚、隔てた向こうに第三者がいる場所でまぐわうなんて論外だ。  だが事、アルフォンソに対して「ノー」の一点張りは通用しない。  悪魔の二択で、まだ許容範囲なのはどちらかといえば──、 「おまえに任せておいては埒が明かぬか。が、ヒトといえど性奴が迷う風情というのは艶っぽくてなかなかオツなものだ」  馬車が走りだした瞬間、揺れを利用して腕を引っぱってくる。上体が泳ぎ、そこを狙い澄ました敏捷さで、再び足下にひざまずく方向へ持っていかれる。 「う、ぐぅ……っ!」  イチモツが唇を割るのももどかしげに攻め入ってきた。舌で懸命に押し返そうとすると、逆に吸盤が(そな)わっているように、ぴたりと合わさる。小気味よさげに尻尾が揺らめき、それとは対照的に、 「ん、んんん……むぅ、んんんっ」  呻き声を日本語に訳すと──ゲスいチンポは排水口にでも突っ込んでおけ、おれをオナホール代わりにするなクソッタレ! だ。 「おまえは、つたないなりに口淫の向上に努めた。労をねぎらって、また後学のために手本を示してやろう」    帝王然と、そう厳かに告げる。そしてアルフォンソは両のこめかみに掌をあてがうと、ヘッドギアをかぶせたように頭を固定したうえで、激しく突きあげてきた。 「ん、ぁ、ぐぅ、ん……ぅ、んんっ!」  志木は頭を打ち振った。もっとも振ったつもりにとどまり、しかもネジをぎりぎりと締めるように挟みつける力が増す。専用の特殊な機器にセットされたふうな状態で、腰づかいに拍車がかかる。 「なまけるでないぞ。丁重にしゃぶるよう努めるのだ」 「く……ん、ぐ……うぅ……む……ぶっ!」  時化(しけ)の海を小舟で漕ぎ渡るところさながら、もはや息をするのが精一杯だ。口腔を花筒になぞらえて荒々しく律動が刻まれるたび、壁を彩る金糸の紋章もカーテンの房飾りも、あらゆるものが二重、三重にブレる。  時折、勢いあまって猛りが口からはみ出すさまは、龍が暴れる図という(おもむき)があった。  快感を得るため(ほしいまま)にふるまうというより、性奴の務めとは何かを改めて叩き込むため、情け容赦のない躾をほどこしているのだ。  マンツーマンおよびスパルタ形式による教育が行われるのをよそに、馬車は軽やかに走る。行く手がさんざめきはじめたのは、あれは王都の街明かりだ。  双六(すごろく)でいえばのように、まっすぐ公爵邸へ向かうのか。それとも街道を折り返し、基礎固めと称して口淫をつづけさせるのか。  残りの道のりでアルフォンソが崩落を迎えるところまで持っていけるか否か、それが鍵を握る。

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