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第45話

〝ぼくちゃんエラいんだじょお〟と科白をつけて、小枝で地面にアルフォンソの似顔絵を描いた。  令和の人間関係は基本的に希薄で、誰かに狂おしいまでに粘着されることなど滅多にない。アルフォンソにしても志木に関心を抱きつづけるのはヒトという玩具の新鮮味が薄れるまでで、長くても一、二ヶ月の辛抱だと予測していた──希望的観測ともいうが。  誤算もいいところだ。志木をきっかけじたいアルフォンソ曰く、 「最愛の弟は悲運のうちに逝った。時空の裂け目に落ちたばかりか、珍獣マニアなるヒトに捕まって嬲り殺しにされたのだ。おまえはマニアに成り代わって万死に値する罪を償うべく、(にえ)としての務めを全うせねばならぬ」。  ではアルフォンソの心を焦がす憎悪の炎が消えて、恩赦が与えられる日は果たして訪れるのか。むしろ日増しに執着の度合いが強まっていくようで空恐ろしいのだが……、 「現状維持のまま、よぼよぼのジジイになってました……うわあ、サイテー」  と、薔薇(えん)を縫って延びる小道のほうから足音が近づいてきた。聞き慣れてしまったそれに、げんなりするとともに躰が強張った。 「おまえは暇さえあれば、ふらふらと屋敷を抜け出して世話を焼かせる。いっそのこと縄でつないでもよいのだぞ」 「縄よりか、どうせなら鎖でよろしく」  などと、鎖と一体型の足枷をはめるジェスチャーを交えて皮肉った。  拘束具なんかに頼らなくても、躾が行き届いているおかげで行動範囲は庭園に限られていますし? 自嘲的な嗤いを口辺に漂わせつつ、知らず知らずのうちにズボンをくつろげようとしている。薫陶の賜物だ。アルフォンソがやって来ると、反射的にまぐわう準備をはじめるあたり、おれの前世はパブロフの犬かもしれない。  志木は、アルフォンソの忠実な(しもべ)とも言える手を思いきりつねった。  色とりどりのタイルが泉のぐるりに敷き詰められている。アルフォンソが手ずから運んできた茶器と菓子が、その上に並んだ。 「これはこれは、公爵ともあろう御方が召使いの領分を侵す真似をなさるとは。どんな魂胆がおありなのか性奴風情には想像もつきません」  紅茶をカップにつぎ分ける手は、つぎの瞬間には頭を引き寄せて、無理やり股ぐらへと持っていきかねない。  紅茶にしても媚薬を溶かしてあって、志木が自分で後孔をほぐしてイチモツを招き入れるさまを事細かに物語ってみせたあげく、しれっと〝躾〟と(のたま)うくらいのことは平然とやってのける。

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