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第47話

 おざなりな相槌を打ちながらビスケットをかじる。〝泉の精〟なんかを引っぱり出してメルヘン・キャラに宗旨替えかよ。そう心の中で毒づいたのは、さておいて。  膝枕でもぞもぞするのは勘弁してほしい。振動が下腹(したばら)に響くたび、それが甘美なものにすり替わって、待ち焦がれていたように躰の芯がざわめきだす兆しを見せるから。  アルフォンソを置き去りにして、貯蔵庫にでも隠れるに限る。反抗的な態度をとった報いに、ベッドの上をのたうち回る羽目に陥っても、の親密さを演出するのにつき合わされるのは我慢できない。  志木はカボチャか何かを持ちあげるように、頭をどかしにかかった。先んじて、 「マッチじゃないんだ、こするな」  ちょんとつつかれた程度にもかかわらず乳首がつきりと尖る。飴と鞭を使い分ける要領で、うまうまと躾けられてしまった自分自身に愛想が尽きる。  切れあがった目尻に、照れ笑いめいて優しい皺がきざまれた。アルフォンソは、らしくもなく訥々(とつとつ)と言葉を継ぐ。 「不可解きわまりないことに情が移ったとみえる。弟の仇であるヒトごとき、狂い死にするまで凌辱の限りを尽くしても気がとがめるはずがない。いずれ最下層の淫売宿に下げ渡すつもりであったが、いちどは愛でたものを手放すのは惜しまれる。ありていに言えば未来永劫、おまえを独り占めにしたいと望む。まったく、我ながら()せぬ話だ」  望む、と厳かな口調で繰り返したあとで黒髪をひとふさ梳き取る。類い稀に美しく、また、ひび割れやすい玻璃(はり)に恐る恐る触れるように。 「未来永劫? 独り占め? あんた、なに寝言をほざいてんの」  志木は噴き出した。吐き気をもよおす醜怪なものを、却って凝視してしまうのにも似た反応だった。  回りくどいプロポーズみたいで、本気でそうと匂わせているのだとしたら、虫がいいにも程がある。未来永劫を反芻するにつれて臨界点へと近づいていき、それでいて膝枕の刺激でペニスが萌す。  淫乱のレベルまでおれを作り替えておいて、今度は甘言ってやつを弄して、嗤える……! 「うれしがらせを言ったつもりかよ、でなきゃ新手の嫌がらせなのか。ロマンス詐欺のセオリーでおれを丸め込んで、あんたを憎む権利を奪うな!」  悲痛さを併せ持つ罵声にかぶさって、エールを送るように柳がざわつく。やり場のない怒りが捨て鉢な行動へと駆り立てた。  志木は、どさりとアルフォンソを押しやった。それからズボンを蹴り脱ぐが早いか、四つん這いになった。 「あんたにとっては、おれは使い捨てにできる肉便器。おれの存在理由に余分なものを付け加えて、いい子ちゃんぶるな!」

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