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第2話

今回の会場は市場セレクトのおしゃれイタリアン居酒屋。 デートや合コン客に人気のお店ということもあり、薄暗い照明やBGMがムードを盛り上げる演出をしている。 「芳賀くんと宇井くん到着したよー!」 「おい、遅いぞー!」 「芳賀くん? え? ちょっと待って、なんで手つないでんの~?」 市場に指摘されて、ようやく気づく。 ヤバっ、キスのことで頭がいっぱいで、手をつないでるのに気づかなかった……。 「うわ、仲良しかー!」 海藤が茶化す。 俺は慌てて手を離そうとするが――芳賀がその瞬間、俺の手を強く握り返した。 「俺たち、付き合うことにしたから。みんなよろしくね」 ……は? 一瞬、頭が真っ白になる。 何言ってんだコイツ!? 普通、こんなとこで発表するか!? 「えええ~~~っ!」 市場が叫び、周りも一気に盛り上がる。 「付き合ってな――」 「キャ~! めでた~い!」 俺は慌てて否定しよとしたが、興奮した市場の声にかき消された。 「推しから推しカプ昇格~! 全力で応援するからね~! さあ、乾杯しよ~! みんな、グラス持って~!」 「ななせちゃん、落ち着いて」 市場の急かす声で、全員がグラスを持ち上げる。 待て待て待て、ちょっと待ってくれ……! 乾杯なんかされたら、もう逃げられないじゃん! 「はい、宇井」 芳賀が俺にグラスを渡してきた。 こいつ、絶対楽しんでるだろ……! 「芳賀くんと宇井くん、永遠に幸せになって~! 乾杯~!」 「乾杯!」 一斉にグラスが高く掲げられ、店内に乾杯の音が響き渡る。 俺たち、付き合ってないんだけど……。 ――でももう、今さら何も言えない。 俺は頭を抱えたくなる気持ちをぐっと堪えながら、目の前のグラスに映る自分の顔をぼんやりと見つめた。 ……俺、どうすりゃいいんだよ。

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