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第3話
ついてきてしまった……。
俺は芳賀が住むマンションを見上げる。
同期会が終わると俺は芳賀を捕まえ、「話があるっ」と詰め寄った。
そしたら「もう、遅いから。うちで話そう。泊まっていきなよ」と言われた。
あれ……墓穴掘った?
心の中で項垂れる。
「どうぞ。入って」
「部屋に連れ込んで何する気だよ!」
身構える俺をみて、芳賀は笑い出す。
「意識してくれたんだ。嬉しいな~」
「ちがっ」
「違うの? なら入れるよね?」
「とーぜん」
玄関のドアが閉まると同時に、壁に追いやられる。
覆い被さるように見下ろされ、心臓が跳ねた。
「入ったってことは、覚悟できてるってこと?」
「はっ!? ちがっーー放せっ!」
「冗談だよ」
あっさり体が放れる。
また揶揄われた。
リビングに続く廊下を歩く芳賀の背中に、不満をぶつけた。
「ってか、付き合うってなんだよ! 付き合うなんて聞いてない!」
「いい考えだと思うんだけどな。宇井が彼女と別れたこと気にしてたから、色々考えたんだよ。付き合えば、俺の時間は全部宇井のものになるだろ」
俺のためみたいに言われたら、何も言い返せない。
芳賀は振り返り、俺の手を引きソファに座るように促す。
俺は芳賀の隣に座った。
「宇井が付き合ってくれないなら、彼女作っちゃうよ。そしたら宇井と過ごす時間減っちゃうな~」
「だからって、みんなの前でいうことないだろ! ってか、まだ付き合ってないし!」
「嫌だった? ごめんね」
反省してないな、こいつ。
「付き合うかどうするかは宇井が決めていいよ。シャワー先どうぞ」
シャワー浴びさせて何する気だ!?
身構える俺に、芳賀は苦笑する。
「そんな構えないでよ。何もしないよ。男と付き合ったことないし……一緒に勉強しよう」
「お、おう……ってまだ付き合ってない! 勝手に予習するなよ!」
「それは……俺の自由だよね?」
芳賀はニヤリと笑う。
こいつ、俺の反応を楽しんでいるな。
セミダブルベッドに横になった俺は、緊張していた。
隣に芳賀の体温、息づかいを感じるからだ。
「宇井、一緒に住まない? 実家より通いやすいよ。部屋も空いてるし。考えてみてよ」
「ここ2LDKだっけ? 広すぎない? 一人ならもっと狭くていいよな? 彼女と住む予定だったとか?」
「空いていたのがこの部屋だっただけだよ。ここさ親父の持ち物なんだ」
「賃貸経営してんの? すごっ。普通のサラリーマンじゃないじゃん。スパダリがっ」
「親父は普通のサラリーマンだよ。爺さんから遺産相続しただけだよ」
芳賀は笑う。
「一緒に暮らしたら楽しいと思うんだ。毎日の出来事を顔を見ながら話すことができるんだよ」
「嫌になるんじゃない? 毎日俺と顔合わせてたら……」
俺は芳賀に背中を向ける。
「どうしてそう思うの?」
「だって他人だし」
俺の性格を受け入れてくれるのは、家族だけだ。
「“お試し”する? まずは通いから始めてみるのはどう?」
「まずは付き合うかどうかだろ?」
「そんなに難しく考えなくていいんじゃない? 俺と一緒にいたいかどうか。それなら考えやすいだろ」
「うん、まあ……」
芳賀はなんで俺と付き合いたいのかわからない。
ちょい前まで彼女いたのに、俺と付き合うって……。
そうだよ。こいつ彼女いたんだよ。
このベッド……元カノも寝てたよなーー。
他人が使っていたと思ったら、鳥肌が立つ。
俺はがばっと起き上がった。
「俺ソファーで寝る」
「どうしたの、急に」
芳賀も驚いたのか、上体を起こした。
「一人がいいの? 俺がソファーで――」
「このベッド嫌だ!」
嫌だ、を繰り返す。
「……わかった、用意するよ」
芳賀は俺の頭を撫でてから、リビングに向かった。
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