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第5話

俺は姉が勤めるバーで昨日起こったことを報告した。 「キ、キスされた……っ」 「キャ♡」 従姉妹のサエが黄色い歓声をあげる。 「同期会で、みんなの前で、付き合ってるって言われた」  思い出したら、恥ずかしさと怒りが込み上げる。 「普通みんなの前で言うか!? 言わないだろ! いつ付き合ったんだ! 付き合ってないから! あいつ、厄介!」 「惚気けんな」  姉がウイスキーのグラスを磨きながら、こちらを見つめる。 「あら♡」 サエはカクテルを傾けながら、ニヤニヤしている。 「惚気てない!?」 「やることに無駄がないね。やるわね、スパダリ」 「ねー♡」 「俺どうしたらいい? 男と付き合ったことないし。付き合わないと彼女作るって、俺との時間なくなるって脅されただけで……好きだって言われてない!」 「好きって言われないと付き合えないの?」 姉がグラスを棚に戻しながら聞いてくる。 「……いや、そりゃあ、そうだろ?」 「じゃあさ、もし『好き』って言われたらどうする?」 姉の問いに、一瞬返答が詰まる。 「……わかんない。でも、なんかムカつくんだよ。勝手に付き合ってるって言われて」 「泊まってきたんだから色々話す時間あったでしょ。何してたのよ」  「キャ♡」 「な、何もしてない!」 「結局、どうしたいかは自分で決めるしかないのよ。スパダリが何を思ってるかなんて、彼に聞いてみないとわからないしね」 「……だよな」 サエがにんまりと笑い、カクテルを飲む。 「あーちゃん、早くしないと、スパダリくんに彼女ができちゃうかもよ~」 「うるさい!」 俺はむきになって言い返すが、その言葉の裏に、妙な焦りがあることに自分でも気づいていた。

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