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第6話
池袋事業室の先輩たちに、飲み会という名の合コンに連れ出された。
同期で他に来れるヤツと言われたので、芳賀の名前を出したら、イケメンはNGと言われた。
まあ、気持ちはわかるけど、俺はよくて芳賀はダメなんだ。
いじけてやる。
「飲みすぎた……気持ち悪りぃ」
ホームのベンチに座り、終電を待つ。
盛り上げろという圧に負け、飲み過ぎだ。
先輩たちは連絡先交換できたと喜んでいたのでほっとした。
明日が休みでよかった。
重いまぶたをそっと目を閉じる。
「――さん、お客さん、お客さん」
「え? あれ……?」
「終電終わりましたよ」
「……はい。え!」
俺、寝てた!?
「サイテー」
駅を出た俺は、芳賀に電話した。
迎えにきてくれた芳賀の車に乗り込む。
車の揺れが気持ち悪さに拍車をかける。
「気持ち悪っ」
「家まで我慢できる?」
「……我慢する」
家についた俺は、トイレに駆け込んだ。
背中をさする芳賀の手に安心する。
シャワーから上がると、水を渡された。
「気分は? 薬飲む?」
「吐いたらすっきりした」
芳賀も安心したようだ。
「腹減った……コンビニ行ってくる」
「俺も一緒に行くよ」
「いいって。明日仕事だろ」
「俺が一緒に行きたいんだよ。まだ髪濡れてる。風邪ひくといけないからーー」
「大丈夫だって。風にあたると気持ちいいし」
俺たちは歩いて三分のところにあるコンビニに行った。
「アイス食う? 今日のお礼。おごる」
アイスを物色する。
「俺、これ好き。ヨーグルトのアイス。知ってる?」
「知らない。食べてみようかな」
コンビニの帰り道、夜風が心地よく吹いていた。
アイスの甘さと冷たさが体に染み渡り、少し酔いも冷めてくる。
「美味しい」
「だろ。ハマる」
アイスを食べながら、今日あった電話先の変な客の話や、合コンの話をした。
楽しい。
芳賀に彼女が出来たら、この時間もなくなるのか。
それは、寂しい。
「なあ、芳賀」
「ん?」
隣を歩く芳賀は、俺の何気ない呼びかけにもすぐ応じてくれる。
「お前さ、本当に彼女とか作るの?」
思わず聞いてしまった。
芳賀は少し歩を緩め、俺をちらりと横目で見た。
「宇井が付き合ってくれないなら、作るしかないかな」
冗談めかしたような言い方だが、その言葉が妙に胸に引っかかった。
俺と一緒にいたいって言ってたけど、本当のところはどうなんだ?
「……なんで俺なんだよ」
俺は自嘲気味に笑った。
芳賀は足を止め、まっすぐに俺を見つめてくる。
「宇井がいいんだよ。他の誰かじゃなくて、宇井が」
その言葉に、心臓が跳ねた。
風に混じって、芳賀の言葉が耳の奥にこびりつくように残る。
「俺さ――」
何かを言いかけた瞬間、芳賀が手を伸ばして俺の頬を撫でた。
「アイス、溶けてるぞ」
そう言って笑う芳賀の顔が、やけに優しい。
俺は急いでアイスを舐め取った。
部屋に戻ってから、二人並んでソファに腰を下ろす。テレビはつけず、静かな部屋に夜の空気だけが漂う。
「芳賀……俺、お前のこと、まだよくわかんない」
正直な気持ちをぽつりと口にした。
芳賀は俺の言葉を遮らず、ただじっと聞いている。
「でも、彼女できて、お前とこういう時間がなくなるのは……なんか、嫌だ」
自分でも驚くほど素直に言葉が出た。
芳賀は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。
「それ、十分な理由だよ」
「……理由?」
「一緒にいたいって思うのに、他に理由なんているか?」
そう言われて、何かがすとんと腑に落ちた気がした。
俺は、ただ芳賀と一緒にいたい。
それが、理由なんだ。
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