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第7話
俺は連日のように姉が勤めるバーに顔を出していた。
姉の冷たい視線に耐えかねて、俺はカウンターに突っ伏した。
「ったく……こっちは真剣に悩んでるんだぞ……」
姉は無言でグラスを磨き続けている。
「姉ちゃん冷たい。サエちゃんは?」
「毎日来てるわけじゃないわよ」
「姉ちゃん、芳賀は何で俺と付き合いたいんだろ……?」
ボソッと呟く。
「ちゃんと本人に聞いたんだ。何で俺なのか。そしたら俺がいいって……それ以上きけないじゃんか」
「惚気なら帰りな」
「惚気じゃない!」
俺はむくっと起き上がる。
「女の子にもモテるし、この前先輩にムリクリ合コン連れて行かれたんだけど、同期で来れるヤツ呼べっていうから芳賀呼ぼうとしたらダメって言われた。結構その先輩もイケメンな方なのにさ。なんで俺なんだろ……」
「悩むんだったら付き合っちゃえば」
「簡単に言うな……」
「なにが怖いの?」
姉の言葉に、胸の奥がずきりと疼く。
「……怖い、のかな」
俺は自分の感情に初めて向き合った気がした。
好きだとか、付き合うとか。
そういう感情を持つこと自体が怖い。
もし失敗したら?
もし傷ついたら?
芳賀は魅力的なやつだ。
自分なんかが隣にいて、本当にいいのかって、考えてしまう。
「相手がスパダリだからこそ、怖いんでしょ?」
姉は的確すぎる言葉を投げてくる。
「……だって、俺なんか、釣り合わない気がする」
俺は正直に呟いた。
「ふーん、じゃあさ、聞くけど――釣り合う恋愛しかしたくないの?」
その問いに、俺は言葉を失った。
「釣り合う、釣り合わないとか、他人の評価とか。そんなの気にしてるうちは、恋愛なんてできないわよ」
姉は軽く息を吐きながら、またグラスを磨き始める。
「スパダリがあんたを選んでるんだから、それを信じなさい」
淡々とした声で言う姉の言葉が、胸の奥に静かに響いた。
店を出て、芳賀に電話をかける。
呼び出し音を聞いていると、『芳賀と付き合う』を意識し始める。
付き合うって――。
「もしもし。宇井どうしたの?」
……やっぱムリ!
俺は電話を切る。
生暖かい夜風の中を立ち尽くしていると、スマホが振動した。
画面を見ると「芳賀」の名前が表示されている。
ごめんっ。
俺は電話に出ることができなかった。
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