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第9話
玄関に姉の靴があるのをみつけると、家に駆け込んだ。
姉は一人暮らしをしていて、家に遊びに来るのは稀だった。
だから、姉に会いたいときはバーにいく。今日もこの後行こうと思っていた。
「姉ちゃん! 俺どうしたらいい? あいつなんか急に怒ったかもだし」
「あんたまだ悩んでたの? よくスパダリが待ってくれるわね」
ダイニングチェアに座っている姉は脚を組み換える。
「最近外泊が多いんだって? 義母さん寂しがってたわよ。相手ってスパダリなの?」
「……うん」
「あんたさー、付き合おうって言われた相手の返事保留にして、何泊まりにいってんの? 手出されたって文句言えないのよ」
「何もされてない」
「スパダリに同情する」
返す言葉がない。
「相手の希望全ムシして、自分の希望だけ通すってどうなの?」
「だ、だって男同士だし、あいつスパダリだし……どう考えても突っ込まれるの俺じゃん」
「……そうね?」
「やっぱり、そうなんだ……」
俺はダイニングテーブルに突っ伏した次の瞬間、がばっと勢いよく顔を上げる。
「いざって時に勃たないって言われたらどうすんの! 俺立ち直れないだろ! トラウマになって一生エッチできなくなるじゃん!」
「……そこ? そこなの? あんたが気にしてるとこ」
姉は大きなため息を吐いた。
「あんたが付き合わないなら、アタシが付き合おうかな」
「何で!」
「エッチが嫌なんでしょ? エッチはアタシに任せて、それ以外スパダリと楽しめばいいじゃない。アタシなら、スパダリを独占したりしないし、丁度いいじゃない」
「ダメ! 姉ちゃんでもダメ!」
勢いよく両手のひらを机に叩きつける。
バンという大きな音に、義母が心配して顔を覗かせた。
「答えは出てるんでしょ?」
姉の言葉にハッとした。
「不安な気持ちもわかる。でもスパダリも不安なんじゃない? あんたが不安に感じてること、スパダリにも伝えて二人で話し合いなさい」
俺は姉の言葉に、ぐっと詰まった。
不安に感じているのは自分だけじゃない――
確かにそうかもしれない。芳賀も、俺が曖昧な態度を取り続けているせいで、どこか不安に思ってるかもしれない。
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