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猫(3) 黒猫、握って引っ張られる

 ある休日。 「ご主人様、あれにゃあに?取って~!」  くろ丸が空に向かって思いっきり手を伸ばしている。 「あれ?あれは飛行機だよ。高すぎて取れるわけないだろ」 「屋根に登れば取れるニャ?」 「無理だよ。ほら、行くぞ」  くろ丸の手を引いた。  休日はくろ丸と散歩してやるのが日課、いや週課?になった。 「こんにちは」 「こんにちはー」 「ウー……ガウガウガウ!目障りなやつらめ!」 「これ、ハナコ!ごめんね、いつも」 「いいえー」  あの大型犬ハナコと飼い主のおじさんとすれ違うのにも俺は慣れた。くろ丸は相変わらずビビッてるけど、若干強気になり「フーーッ」と威嚇している。俺の腕にしがみつきながら。爪が刺さる……。 「ご主人様、これあげる!」  公園でくろ丸を遊ばせる。  ベンチに座って見守っていると、さっきから花とか石とか持ってきてくれる。お前は犬か! 「サンキュウ、ベリイマッチ」  毎回礼を言うのが面倒になってきて、適当に言ってみたり。くろ丸が首を傾げながらしゃがみ、俺の膝に顔を乗せる。 「さんきゅう、べり?」 「ありがとう、って意味!」 「うみゅう……眠くなってきたニャ……」  そのままウトウトし始める。  確かにポカポカ陽気で気持ちがいい。見回すと、丸くなって寝ている人……じゃない、多分猫たちであろう背中が見える。 「じゃあもう帰るか?ほら、起きろくろ丸」  くろ丸の背中を軽く叩いて起こそうとしていると、横に誰かが立った気配がした。 「……ん?」  ショートブーツからスラリと伸びた生足、ピッタリ腰にフィットしたミニスカート、服に収まりきらなそうな大きな胸、長くてクルクルと綺麗な巻き髪、魅惑的な唇、つり上がり気味の大きな瞳。  美人だ! 「あんた、名前は?」 「え、俺!?」 「人間に聞いてないにゃ。仲間に聞いてるの」 「は!?」  頭に立派な猫耳が生えてる。  ……猫かー。ガッカリする。  首元には小さな鈴が付いたお洒落なチョーカー……首輪かな?もしてるから飼い猫っぽい。  一足先に気付いたくろ丸は、ベンチに座って俺にしがみついている。こいつ、人見知りだけじゃなくて知らない相手は全般的に苦手っぽいんだよな。 「くろ丸、お名前は?って聞いてるぞ」 「ご主人様が言ったニャ……もう必要ないニャ」 「あ、ごめん。……ってわけで“くろ丸”なんだけど」  くろ丸の膝をポンポンとして紹介する。  巻き毛の猫はふぅんと言いながらくろ丸の隣に座る。くろ丸はますます俺にしがみつく。く、首が苦しい……。  巻き毛の猫はくろ丸の背中をクンクンと嗅いだり、浴衣の裾を軽くめくったりしている。 「うん、あんたいいね。気に入ったニャ」 「良かったなーくろ丸。お友達出来たな」  こんな美人、そうそう出会えないぞ。羨ましい。 「いらないニャ。バイバイニャ」  くろ丸は俺に顔をうずめて一向に見ようとしない。 「遊ぼうニャ~」  巻き毛猫がくろ丸にすり寄る。胸元から谷間が!眩しい! 「ほ、ほら、少し遊んできたらどうだ?」 「聞いた?ご主人様の言葉には従わにゃきゃ。ちょっとだけでいいから遊ぼうニャー」 「うみゃーー」  俺の顔を恨めしそうに見るくろ丸。 「行ってこい、待っててやるから」  仕方なさそうに立ち上がり、ノロノロ歩くくろ丸と、ウキウキと腕を組んで歩く巻き毛猫。これ付き合ったらくろ丸は絶対尻に敷かれそうだな。  と思った途端、胸がズキズキと痛んだ。なんか嫌だ。くろ丸が誰かのものになるなんて。  ……嫉妬か。  あー嫌だ俺。と、顔を手で覆っていると、「ミギャー!!」という叫び声が聞こえた。あの声はくろ丸!?  慌てて声のするほうに行くと、茂みの裏からくろ丸が飛び出てきた。 「待ちにゃさいよ!」  と、巻き毛猫も出てくる。俺の背中に隠れるくろ丸。 「おい、どうしたんだ?」 「こいつ、逃げたのよ!」  巻き毛猫が興奮している。 「なんで逃げたんだ?遊んでたんだろ?」 「だってだって……」  くろ丸が震えている。 「くろ丸のチンチン触ったんだもん!握って引っ張ったニャ!」  ゲッ!なんだそれ! 「引っ張ってないニャ!触ったら逃げたんでしょうが!折角やらせてあげようと思ったのに!」 「くろ丸のチンチンはご主人様のものニャ!誰も触ったらダメなのニャ!」 「お、おいお前ら、声のトーン落とせよ!」  色んな人や動物が振り返って見てる。  つーか、いつからくろ丸のナニが俺のものに……?うれし……いやいやいや! 「とにかく、二人……じゃない、二匹とも落ち着け!」  フーフーシャーシャー威嚇し合っている。一触即発な感じ。巻き毛猫の手から鋭い爪が出ている。 「一発やらせにゃさいよ!飼い主からもにゃにか言って!」  猫に指示されるとは。でも俺はくろ丸の飼い主だ。 「くろ丸が嫌がってるからやめような。今日はバイバイしよう」 「にゃんですって!?」  バッと巻き毛猫が手を振り上げた。くろ丸を守らねば!と咄嗟に前に出る。 「イッテ!!」  バリッと腕を引っかかれた。 「……コラ!!」  声を限りに怒鳴った。思いがけない大声に巻き毛猫は驚いたようで、耳を倒して大人しくなった。 「……にゃんにゃのよ。もう遊んであげにゃいから!」  ダッシュで去っていった。 「イテテテ……」  腕を見るとうっすら血が滲んでいた。くろ丸にもこんなに引っかかれたことないのに……。 「ご主人様、ご主人様!」  くろ丸が背中に抱き付いてきた。 「ご主人様ありがとニャ。カッコイイニャ。大好きニャ」 「あー、どうも」  背中にスリスリされている。スリスリ、スリスリ。  ……ん?なんか、太ももの裏辺りにもなにかが当たってるような……。 「……んっ、んっ」  と漏れるくろ丸の声。ちょちょちょ!!  慌ててくろ丸を背中から剥がした。 「ふにゃ?」  くろ丸は頬を赤らめてポーッとした顔をしている。 「帰るぞ、くろ丸!」  手を引っ張り急いで歩き出す。もしや……マウンティングされてた……?  あんの巻き毛猫のせいか?いや、くろ丸の歳なら、いつ発情が始まってもおかしくはない。トビーは去勢していたが、くろ丸はしていなかった。今から思えばそれが良かったのか悪かったのか……。  いつか好きなメス猫が出来て、交尾して、子供が出来るように。きっとくろ丸に似たすごい美形な子猫だろう。  でも見たくない。交尾もしてほしくない。俺だけのもので、いてほしい。  あーマジで姉貴にヘンタイ確定されそうだ。 「たっだいまニャー!」  家に帰り着いた時には、くろ丸の様子はすっかり元に戻っていた。ホッとした。  ちょうど姉貴が通りかかる。 「あ、おかえりーくろ丸。と、ナオも」  俺はついでか! 「くろ丸、お姉ちゃんとお風呂入ろっか?すっごくいい匂いの石鹸あるよ?」 「いやニャ。ご主人様と入るニャ」 「はい、何百連敗だ?」  俺はニヤッとしてしまう。姉貴は負けじと続ける。 「お姉ちゃんと一緒にお風呂入ったら、お風呂上がりに美味しいおやつに美味しーいふりかけかけてあげるんだけどなぁ」  くろ丸の耳がピクッとする。 「い、いらにゃい……」  とか言いつつ舌なめずりしてるけど、本当にいらないのか? 「姉貴、ふりかけってなんだよ?またなんか買ったのか?」  俺も人のこと言えないが、母親と姉貴はやたらとくろ丸に物を買い与える。浴衣はもうすごい枚数あるし、髪留めもやたらある。太らないように餌は俺が管理してるけど、おやつ類はたまにこっそり与えてたりするので油断も隙もない。 「あんたには教えなーい。また取り上げる気でしょ」 「またなんか変なもん買ってんのかよ……」  これは阻止しなければ。 「あら、あんたたち玄関で何してるの?おかえり、くろちゃん」 「ただいまニャー」 「お姉ちゃん、一応マタタビの粉はナオに確認してもらったら?」 「ちょっ!言わないでよー!」 「マタタビかよ!」  やっぱり変な物買ってた! 「あら内緒だったの?でもコッソリ使って何かあったら大変でしょ?」 「そうだけど……。もうっ、私お風呂入ろ!」  姉貴は行ってしまった。母親が慎重で良かった。 「お袋、ありがと。また何かあったら教えてくれよ」 「もちろんよ。でもナオのためじゃないわよ。かわいーいくろちゃんのために教えてあげるわねー」 「うにゃー」  母親に頭を撫でられてくろ丸は目を細めた。  その夜、風呂に浸かっていると、風呂場の扉がカリカリ引っかかれ、くろ丸が「入る~」と言ってきた。  お、有言実行か。偉いな。 「開けて入ってこい」  そう言うと、カチャと扉を開けて裸のくろ丸が入ってきた。 「もう脱いでんだ。偉いじゃん」 「ご主人様のママにお願いしたニャ」  無事に風呂好きになったくろ丸は、今みたいに「入りたい」と言って後から入ってくることがあったが、大抵は浴衣姿のままで(自分で帯が解けないから)、俺が一旦浴槽から上がって脱がさないといけなかった。  なんていう成長だろう!親バカは感動した。  くろ丸は風呂桶にお湯を汲むと、猫耳を寝かせて頭からザバッと湯を被った。ブルブルとお湯を振り落とす。 「熱くないか?」 「だいじょぶニャ」  くろ丸が風呂に入るようになってから、我が家の風呂はぬるめになった。姉貴は元からぬるめで長時間半身浴派だったらしいけど。  父親は熱湯派らしいが、出る前に水で埋めて出てくれるらしい。  なんていう協力的な家族だろう! 「ドッボンするなよ?」 「うにゃっ」  ソッと浴槽に入り、俺の膝に座って身体に寄りかかる。お決まりのスタイル。俺のことソファーとでも思っているらしい。  向かい合って座らせたこともあったけど、浴槽が狭くて大股おっぴろげた姿があまりにも刺激的だったのでやめさせた。 「じゃあ、十数えたら出ろ」 「うんにゃ、えーと、いち、にい、さんま、しい、ご、ろく、にゃ……にゃな、はち、きゅ、じゅう!」 「なんかサンマ混じってたけど、いいか」  笑ってしまう。 「ほら出ろ」 「ニャッ」  くろ丸が俺の腕を支えにして浴槽から出ようとしたので、指先が昼間に巻き毛猫にやられた傷に当たった。 「イテッ!」 「ふにゃっ!?ごめんにゃ!」 「ヘーキヘーキ。なんともない」  帰ってからすぐ洗って消毒したし、大したことない。  俺の腕の傷を見て、悲しそうな顔をするくろ丸。 「ここ、痛いニャ?あのメスのせいニャ」 「平気だって。ちょっとビックリしただけ」 「ふみー……」  か細く鳴くと、俺の腕をペロペロ舐め始めた。 「いっ、ありがと!平気だってば!」  ザラザラした舌で舐められるとさすがに痛い。 「みゃーん」  甘えるように俺の肩に腕を回し、首筋を舐め始める。これは慰めてくれてるのか?  そしてくろ丸の舌は、俺の首から頬、唇へ…。 「んむっ、ちょっ!」 「っんみゃ、んっ」  首を反らしてかわそうとするも、唇一点狙いでペロペロ舐められる。これは危険な展開! 「わー!くろ丸、ありがとうな!慰めてくれて!嬉しいな!腕痛いの治った!」 「……ほんとニャ?」 「うん!じゃあ身体洗うぞ!タオルにアワアワ付けて」 「うにゃ!」  タオルを濡らし、ボディーソープを付けるくろ丸の姿を見ながら、浴槽に入ったままの俺はソッと自分の股間を確認した。  ハァ、やっぱり少し反応してる。  くろ丸と一緒に風呂に入ると、ふとしたことでもつい勃ってしまう。完璧に性の対象としてあいつを見てしまっているのだ。  幸か不幸か、くろ丸はまだそういうことの認識は無いみたいで、ちょっと俺が勃ってても気にしないのは助かる。  ただ、今日の昼間、マウンティングみたいなことされたんだよなあ。擦られた時の感触が固かったし、勃ってたのかも。  そうか、くろ丸も……。  ……ヤバイ。ますます股間が熱くなってきた。 「はい!せにゃかー!」  泡タオルを俺に差し出すくろ丸。背中や頭以外は自分で洗えるようになった。  優しく背中を磨いてやる。なめらかで綺麗な背中。かつてあったかぶれや傷は跡形もなく消えた。  この背中から手を這わせ、胸を揉みしだきながら挿入してみたい。  ……。  ……。  ハイ、アウト!!  ……なるべく早く、一人(一匹)で入浴出来るようにしつけよう。このままじゃ襲いかねない。

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