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第2章 第12話

 思考の膜の外側では、まだ彼らが会話をして、止まって―――また会話が始まっている。 「大丈夫?」  不意に彼らの会話が止まり、スリジエに肩を叩かれた。ジラソーレは気分が落ちて沈んだ顔を上げた。整った美しい顔の眼窩に嵌められた綺麗なエメラルドが、じんわりと感情を滲ませてジラソーレを注視している。  胸の奥でつっかえて、落ちて、沈んで―――それがいつの間にか衝動的な感情になって。息が詰まって、指先が震えて―――脳天が真っ白になった。  だん、と手に衝撃が走った―――と、認識する。スリジエの叫び声。何が起こったのか、ジラソーレには理解できなかった。  真っ白になった思考と視界が徐々に輪郭を取り戻す。床に尻もちをついたスリジエが痛みに顔を歪めて、それを心配そうにダフネが身を屈めている。前に突き出したままのジラソーレの手が視界に入った。  あう、あうと息を漏らしながら、ようやく状況を掴む。手に衝撃が走ったのではなく、ジラソーレがスリジエを突き飛ばしていたのだ―――自ら衝撃を作り出していたという事実に、目が揺らぐ。視界がぐらぐらと揺れて、思考が霞む。 「ジラソーレ」  好きな人の、怒気が含まれた声。肩が跳ねた。  いつでも味方してくれていた彼が、今はスリジエの味方をしている。いつだって、いつだってダフネはジラソーレの味方をしてくれていたのに―――見捨てられたと思った。  もう居場所なんてなくなってしまったのだと、加速してしまった思考を止める術を知らず、どろどろと感情が溢れていく。声が出せたならば叫んでしまっていただろう―――感情を吐露する方法すら奪われた不自由さに、目に涙が溜まった。 「だ、大丈夫だから―――待って、ジラソーレさん!」  スリジエがへらりと安心させるように笑っている顔すら耐えられなくて、彼らに背中を向けてジラソーレは走り出した。木々の中に飛び込む。枝や木の葉が肌を掠めて、ぴりりとした赤い痛みが走った。  息が、苦しい。感情が、苦しい。溜まった涙が頬を伝って、走る速度に合わせて地面に流れ落ちている。  何もかも不自由で、何もかもが身を縛るように擦れて痛かった。

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