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「トール……!」
イオは、己の腕に飛び込んできた、愛おしい青年を抱き留 めた。
互いの存在を確かめるように長めの抱擁をした後 、彼は徐 にトールを姫抱きにした。
「わ、イオ」
吃驚して身じろぎをする。
「ん?」
こんな女の子を抱き上げるような抱き方……どう考えても恥ずかしい……。
しかし、イオは当然のような顔をしている。
「重いでしょ!」
言えなくて、別の言い訳を考えた。
「重くない」
失敗だった。
どちらかと言えば、身長も低く細身のトール。体格の良いイオは軽々と抱き上げていて、全く理由にならなかった。
「は、恥ずかしい……」
仕方なく小さな声で本音を言ってみる。しかし、言ったところで降ろしても貰えなかった。
「花嫁を我らの家にお連れするのは、これが相応しかろう?」
「は、花嫁? だれが?」
一瞬意味がわからず、きょろきょろ周りを見てしまう。
「何処見てる、お前のことだ」
耳許で甘く囁かれる。
は?
ボクが花嫁?!
なに言いだすんだ~~!!
ぱくぱくと口を開けるが言葉にならない。
その口に透かさず、ちゅっと口づけをされた。
『父親』ではなくなったイオは、あからさまに愛を示す。その甘さに、胸がむずむずしてしまう。
イオはゆっくりと花畑を歩いてゆく。トールはしばらく、降ろせーっとじたばたしていたが、そのうち諦めてイオに身体を預けた。
花畑を抜け、現れた家は、トールの生まれ育った家を思い起こさせる。素朴で小ぢんまりとした家。
扉を前にしても、イオはトールを降ろさない。
「ここがお前の新しい家だ」
そのまま内に入り、部屋の奥にある二人掛けの長椅子に降ろされた。
イオが眼の前に跪いた。トールの右手を取り、その甲に口づける。
「愛しい花嫁、ここで俺とずっと一緒に。死が二人を別つまで」
それはまるで、本当に結婚の誓いのような言葉だった。
わっわっーっっ。
もう、やめて~~。
イオ、人格 変わってる~。
一人称も前に戻ってるし~。
ずっと一緒にという言葉も、彼の愛も嬉しい。でも、どうにも慣れなくて、小っ恥ずかしい。
「花嫁じゃない~~ボク、男~~」
やっとそれだけを言えたが、イオは、ハハハと笑いながら炊事場の奥へ消えて行った。
そこに貯蔵庫があるのか、瓶を片手に現れた。それをグラスに注ぐ。透明なグラスが、赤紫に染まるのが遠眼からも見えた。
グラスを持ってこちらに戻ってくる。
「それは?」
「そろそろ辿り着く頃だと思ってな。裏で栽培している葡萄でジュースを作ってみた」
「とうとう、栽培まで……」
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