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銀色のリボン ー1
「さあ、いいぞ」
「うん。ありがとー、父さん」
イオーーボクの父さんは、いつも髪が伸びた頃になると、こうして切り揃えてくれる。
母さんはいない。父さんと二人だけの生活だ。
でも寂しくはない。
ボクは、父さんがーーイオが大好きだ。
「じゃあ、行ってくるね」
「ああ。頼んだもの忘れるんじゃないぞ。楽しんでおいで、トール」
扉の前まで見送りに出てくれる。
その時突然、強い風が吹いた。
「わっ」
イオの肩よりも長い髪が、自分の顔をバシバシ叩いていた。髪を顔から退けようと悪戦苦闘。
「……イオ、ボク髪切ってあげようか?」
「……いいから、早く行け」
口だけがかろうじて見える。
「はぁい」
ボクとイオは村の外れに住んでいる。
近くに他の家はないし、中央の賑やかな場所からはかなり遠い。
イオは中央にはなかなか行きたがらない。
理由はわからない。
ボクが一人で買出しに行けるようになってからは、それはボクの役割になった。市の立つ日にはお金を預かって、買出しに行く。
お金は余分にくれて、残りはボクが好きに使ってもいい。
甘いお菓子。
絵本。
今日は何にしようかな。
「トールぅ!」
頼まれた買い物を済ませ、何を買おうか考えていると、ちっちゃな女の子が手を振りながら駆け寄って来た。
従妹のフィーネーーフィンだ。
その後をボクの伯母さん、フィンの母親がついて来ている。伯母さんは手に篭を持っている。あの篭の中身はおそらく、ケーキかクッキーだ。この市で売るのだろう。
「トール!」
辿り着いたフィンは、ぎゅっとボクに抱きつく。ボクに妹はいないけど、フィンを妹のように思っている。
「トール、悪いんだけど、少しの間この娘 を見ていてくれないかい?」
にこにこするわけでもなく、無表情で頼みごとをする。
ボクはこの伯母さんが余り好きではない。
そして、伯母さんも。
「いいよ。フィンとしばらくお店回ってる」
ボクがそう言うと、伯母さんはさっさと行ってしまった。思わず溜息が漏れてしまう。
気を取り直して。
「フィーン、どこ行くー?」
フィンのちっちゃな手を握って、訊いてみる。
「フィンね、新しいおリボン見たいの」
「うん、いいよ」
綺麗な布やリボン。髪や服につける装飾品などが置いてある雑貨店の入り口をくぐる。男のボクが入るのは少し恥ずかしい。
フィンは、菫色の瞳を輝かせながら、あっちこっち飛び回っている。
「これ、かわいい」
「うん。かわいいね」
ボクは時々そう相槌を打ちながら、店内をぼうっと見ていた。
「あ……」
たくさんのリボンが並ぶ棚のなかで、何故だかそれに眼がいった。
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