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「もし良かったらこの後ーー」
「あ、オレちょっと用事あるんだわ」
「え?」
『この後お昼でもご一緒に』とか言い始めそうで、皆まで言わせず遮った。本人が戸惑っている間にさっと離れ、
「じゃ、また。明後日」
もう既に二、三歩歩いた状態で手を振る。
『また明後日』
その間は会わないと言う意思表示をした。果たして心菜に通じているかはわからないが。
ゆったりとした足取りに見えるが、長い足で大股で歩いているので、あっという間にその場から離れて行った。
スタッフもキャストもあらかたいなくなっていたが、監督・助監督・カメラマンは台本やパソコンを見ながら何やら話し込んでいる。
その前に差し掛かるとぴたっと止まった。
「お疲れ様です」
軽いだの礼儀がなってないなどと言われるアイドルにだってちゃんと、礼儀はある。
良く通るトーンの声に三人は顔を上げて緋色見た。
「お疲れ〜緋色くん今日も良かったよ」
緋色は特にこの映画監督・亜希他 晴家 のお気に入りだった。今回の主演以外にも何度か映画に出演させて貰っている。神経質そうな顔に満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます」
緋色は深々と頭を下げた。
「緋色くんは東京に戻るのかい?」
先程もされた質問をもう一度される。だが熱の籠もった心菜とは違い、社交辞令的な物言いだ。
「いえ、ボクはここに残ります」
「そうなんだ? ーーゆっくり休暇かな? いつも忙しそうだからね」
と助監督の北海 美智也 が柔らかな口調で言った。監督と違い顔も柔らかみがある。伝達事項はだいたいこの助監督の仕事だった。
「そうですね。実はこの辺知ってるところなんですよ」
「へえ」
三人共に軽く興味を唆られる。
「昔祖母が住んでいて何度か来たことがあるんです」
「それは偶然だったね」
「ええ」
緋色がちらっと視線を後方に遣ると、心菜がこちらに歩いて来てるのが見えた。
「今日明日は昔行った場所を回ろうかと思って」
やや声を小さくして言ったのは、心菜にはプライベートなことは知られたくなかったからだ。
「では、失礼します。また明後日からよろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
見かけとは違う落ち着きは、彼らに安心感と好印象を与えている。
「こちらこそ」
頭を上げると心菜に追いつかれないうちにとその場を去った。
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