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『海に捧ぐ』  人気アイドルユニット『なないろ』のメンバー緋色が現状に悩み、ツアー目前で姿を消す。  山と海に囲まれた自然豊かな場所にやってきた彼は一人の少女と出会う。ただの田舎娘と思っていたが、純粋で素朴な彼女にささくれた心を癒され、気がつけば好きになっていた。  しかし、少女は不治の病に侵されており、次第に弱って行き、緋色の前で命を落とす。 「貴方が本当にやりたいことやって欲しい。私の分も精一杯生きて!」  という彼女の言葉を胸にまた『なないろ』に戻る。 「はぁ……こんないかにもアイドル主演の純愛映画です、みたいのオレには似合わないよ」  ホテルの部屋に帰ると、中央のテーブルの上にドサッと台本を置いた。 「しかも、名前もそのまま使うとか、恥ずっ」  Tシャツにジーンズ。私服みたいな撮影用の衣装から、本当に私服のTシャツとジーンズに着替える。 「……クリーニングに出しとくか……」  緋色はバルコニーに出ると、丸い白いテーブルの上に放ってあった煙草に手をつけた。一本咥えて火をつける。  普段は吸わない。ストレスが溜まると吸いたくなることがある。  ここからは綺麗な海が見える。緋色の為にこのホテルでも良い部屋を用意されていた。  セットのやはり白いチェアに座り片膝を立てる。その上に煙草を挟んでいるほうの腕を乗せる。(くう)に揺らぐ紫煙を見ながら。 「オレじゃなくて……子どもらがやれば良くない? ハピエンご法度のアイドル映画なんて」  彼が『子どもら』と呼んでいるのは、最年少十八歳コンビ『青』と『藍人』のことだ。  薹の立った自分よりも若くて溌剌とした彼らのほうが合ってると思うし、そういうチャンスもそろそろ与えて上げてもいいんじゃないかと、彼は思っていた。  実際この話が来た時にそのことは社長に言ったのだ。  しかし。 「これは亜希他監督からの熱烈オファーだから」  と一蹴された。 「大丈夫ですよ〜僕らもでま〜す」 「おれも楽しみっすよ」  たまたま社長室の応接セットを陣取っていた藍人と青がにこにこ答えた。  映画では『なないろ』全員が出演する。ライブ風景やちょっとした絡みも確かにある。それだけでご機嫌な『子どもら』だった。  緋色は途中まで吸った煙草を丸テーブルの上にあった灰皿で揉み消した。 (さて、行くか)  ゆっくりとチェアから立ち上がった。 (オレには確かめたいことがあるーー) ★ ★    ホテルを出てバスに三十分程揺られる。  バスを降りた先には、母方の祖母の家がある。  ホテルのある辺りはまだ観光地らしい雰囲気があるが、そこから離れると過疎化が進んでいるのか高い建物は愚か人家すら疎らになる。隣家との距離がかなりある感じだ。都会に住む者の憧れ、田舎暮らしをするのにうってつけの場所だろう。  
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