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ホテル近くのバス停から乗った時にはまだ観光客らしい男女や、地元のお年寄りなど十人ほどが座っていた。
そんな中この土地には不似合いな真っ赤な髪の男が乗り込んで来たら、それはじろじろと見られても仕方がない。観光客らしい人間からは「あれ……」などとひそひそ話しているのを感じた。
特に変装などをするつもりもさらさらないが、とりあえずキャップのつばで視線をシャットアウトした。
しかし、緋色が目的の停留所に着く前には彼一人になっていた。
バス停を降り十五分程歩く。
田んぼを通り、次第に木々が生茂る方へと向かって行く。
山の斜面を背にその家は建っていた。
(ばぁちゃんちだ……)
小学六年の時だ。
緋色はここで一夏を過ごした。
六月の終わりに妹が産まれた。母は妹を連れ実家で過ごすことになり、最初の予定では緋色は自宅に残ることになっていた。しかし、仕事で忙しい父親が彼の面倒を見るのを嫌がる素振りを見せた為、母親に着いて行くことになったのだ。
ここにはそれ以前も何度か遊びに来たことがあるが、翌春の祖母の葬儀が最後となった。
今にして思えば、祖母の余命を既に知っていた母親が、孫に会わせる為に里帰りしたのだろう。
生垣の間から祖母の家を見ると、もう誰も住んでいないのがわかるくらいに荒れ果てていた。母親には兄弟もいるが、ここをどうするか決められず十年以上が経っている。
見ていると切なくなり、緋色は中に入ることなく離れて行った。
祖母の家の横を過ぎると、そこからは山道になっている。
ここまでは母親に、乗るバスなどを確認していた。
ここからは自分の記憶を頼りに行かなくてはならない。
(確か……)
と思っても、周りは木ばかりで目印もない。道もあるようでないような感じだ。
だが、彼の感が言う。
(ここを抜けると……)
ーー海に張り出した崖がある。
ガサっと葉を掻き分け飛び出すと、広い海がーーーー。
(え……)
誰もおらず、ただ青い海と空が広がるばかりと思っていた、そこにはーー一人の男が座っていた。
少年にも青年にも思える彼が、振り返って大きな目を見開き緋色を見る。
その瞬間、緋色は過去に戻ったような気がした。
余り鮮明でなかった想い出が急に彩られる。
(そうだ……オレたちはいつもここで会っていた……)
「かなで……」
緋色の唇が微かな音ともに動いた。
目の前の彼には聞こえたのか、聞こえなかったのかーー。
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