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建ち並ぶ高層マンション、これでもかと密集した住宅。そんな地域に住んでいる緋色が、隣家さえ遠く離れているような土地で、一夏だけの友だちなどすぐ探せる筈もなく、数日でここへ来たことを後悔した。母親も祖母も産まれたばかりの妹にばかり構っていた。
やはり自宅に残り、いつも遊んでいる学校の友だちとでも遊んでいれば良かったと。しかし、今更そんな泣き言は緋色のプライドが許さなかった。
「別に独りでも平気だ!」
家の外で毎度そう叫ぶと、この辺りの探検を始めた。
畦道をどこまでも歩いてみたり、高い草の生い茂った空き地らしきところで虫取りをしてみたり、やってみれば都会では味わえない探究心が擽られる。
その日、祖母の家の横を通り山へと上がって行った。
そこは一度ほんの数メートル行って止めた場所だ。
道があるようでない。
この土地へ来た翌日以来の再チャレンジだ。
何処まで行っても同じように木々が鬱蒼と伸びているだけで、余程気をつけなければ迷子確定! 彼はポケットに入れたクレヨンで太い木の幹に印をつけて行く。
(これなら来た道がわかる……見つかったら怒られるかなー)
道を歩いていてもたいして人を見かけない。こんなところで人と出会う確率など少ないだろう。
(ま、いいか)
先を進めば進む程、木は密集して空さえも見えない。薄暗く、暑い夏だと言うのに寒く感じ始め、半袖から出た腕を撫でた。
(上着……着てくるんだったかな……」
「っていうか、長袖なんて持ってきてないし!」
だんだんと心細くなって自分でツッコミを入れ気を紛らわせる。それすらも木々の中に吸い込まれてしまいそうだ。
何処まで行っても代わり映えのしない景色に、そろそろ戻ろうかと思っていた時だった。
進行方向の重なり合う葉の間からきらりと光るものが見えた。
もう少しだけ進んでみようか。
心なしか木も少なくなっていくような。
(ひょっとして……この森から抜けられる?)
緋色は走り始めた。
そしてーー。
飛び出した先には、太陽と青い空、青い海があった。
「あれ?」
そこは崖になっていた。
森を抜けた先が道路でなかったことにも驚いたが、その先端に人が座っていたことにはもっと驚く。
それは相手も同じようで、互いにしばらく見詰め合った。
色白で線が細く、一見女の子のように見えた彼は『奏 』と言う地元の少年だった。
同い年か年下かと思ったが、実際は一つ年上。
約束はしなかった。
時々ここに来ると言っていた奏に会う為に緋色は毎日通い始めた。一緒になる日もそうでない日もある。緋色は奏がいなくても飽きもせずそこから海を眺めていたし、奏がいれば話しながらやはり海を眺めていた。
退屈なこの土地での日々が輝き始めた。
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