7 / 23

7

★ ★ ((かなで)……なのか?)  色白で線が細い、でも流石に女の子には見えない。一つ年上の天城(あまぎ)奏。でもこの青年は自分より二つ三つ下のように見える。  確信が持てず、黙って近づき彼の隣に座る。  足を下ろすと何もない空間。遠い下には波が打ちつける岩肌。  正面に青い海と青い空が混ざり合う。  それを緋色は懐かしそうに眺めた。 「あの……」  隣の青年がおずおずと声を掛けてきた。 (声……似ているような気がする……?)  やはり少し低くめではあるが。 「もしかして……貴方……」  じっと緋色を見詰めながら。 (ひょっとして、オレのこと……覚えて……)  緋色も彼の心の内を探るようにその表情をじっと見る。  期待。  しかし、次に出てきた言葉は自分の想像していた言葉とは全く違っていた。 「『なないろ』の『緋色』さんですよねっ?」  かなり食い気味に顔を近づけて来る。  ひと夏だけど濃い友人関係だと思っていた。でもそんな懐かしい友人に見せる顔ではなく、一般的に芸能人に出会ったテンション高めの人間の顔だった。 (覚えてないのか? それとも……全くの別人か……) 「え……まぁ、そうです……」  しらばくれてもいい、騒がれないうちに立ち去ってもいい。人気アイドルならそうすべきかも知れない。しかし緋色はどちらでもなく、そう答えて黙り込んだ。  懐かしい場所で懐かしい友に再び会えた。その期待が砕かれ、自分で思うよりもショックだったようだ。頭が真っ白になった。 「あ、おれの妹がファンなんですっ」 (おれ……おれかぁ……確か奏は『ぼく』って……まぁ、そんなの途中で変わることもあるけど……) 「そうなんだ〜妹さんにありがとうって伝えておいて」  いろいろな想いは顔に出さず、いつもの鼻に抜けるような軽い声で言う。 「はい。妹も喜びます。おれも友だちに自慢できるなぁ〜」  青年も満面の笑顔だった。 (やっぱ違う? なんか雰囲気が)  声はいつも小さめで物静かな感じだった。笑う時ははにかむような笑みを浮かべていた。 (う〜ん)  この状況をどうしたらいいのか悩みながら、とりあえず海のほうに顔を向けた。  「緋色さんはどうしてここに?」  青年は緋色に興味津々のようで、視線が突き刺さるように感じる。  適当に話をして切りの良いところで立ち去ろう、そう考えた。 「映画の撮影に来てるんだよ」 「あ、知ってますよ、その映画。話題になってますね」 「そう?」 「はい! 公開されたら観に行きますね!」 (あれ、妹がファンなんじゃ……や、社交辞令か)  やっと緋色は彼のほうを向いた。 「あ……妹が観たがってたんで、一緒に」 「うん、ありがとう。嬉しいよ」  
1
いいね
0
萌えた
0
切ない
0
エロい
0
尊い
リアクションとは?
コメントする場合はログインしてください

ともだちにシェアしよう!