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(奏 ……なのか?)
色白で線が細い、でも流石に女の子には見えない。一つ年上の天城 奏。でもこの青年は自分より二つ三つ下のように見える。
確信が持てず、黙って近づき彼の隣に座る。
足を下ろすと何もない空間。遠い下には波が打ちつける岩肌。
正面に青い海と青い空が混ざり合う。
それを緋色は懐かしそうに眺めた。
「あの……」
隣の青年がおずおずと声を掛けてきた。
(声……似ているような気がする……?)
やはり少し低くめではあるが。
「もしかして……貴方……」
じっと緋色を見詰めながら。
(ひょっとして、オレのこと……覚えて……)
緋色も彼の心の内を探るようにその表情をじっと見る。
期待。
しかし、次に出てきた言葉は自分の想像していた言葉とは全く違っていた。
「『なないろ』の『緋色』さんですよねっ?」
かなり食い気味に顔を近づけて来る。
ひと夏だけど濃い友人関係だと思っていた。でもそんな懐かしい友人に見せる顔ではなく、一般的に芸能人に出会ったテンション高めの人間の顔だった。
(覚えてないのか? それとも……全くの別人か……)
「え……まぁ、そうです……」
しらばくれてもいい、騒がれないうちに立ち去ってもいい。人気アイドルならそうすべきかも知れない。しかし緋色はどちらでもなく、そう答えて黙り込んだ。
懐かしい場所で懐かしい友に再び会えた。その期待が砕かれ、自分で思うよりもショックだったようだ。頭が真っ白になった。
「あ、おれの妹がファンなんですっ」
(おれ……おれかぁ……確か奏は『ぼく』って……まぁ、そんなの途中で変わることもあるけど……)
「そうなんだ〜妹さんにありがとうって伝えておいて」
いろいろな想いは顔に出さず、いつもの鼻に抜けるような軽い声で言う。
「はい。妹も喜びます。おれも友だちに自慢できるなぁ〜」
青年も満面の笑顔だった。
(やっぱ違う? なんか雰囲気が)
声はいつも小さめで物静かな感じだった。笑う時ははにかむような笑みを浮かべていた。
(う〜ん)
この状況をどうしたらいいのか悩みながら、とりあえず海のほうに顔を向けた。
「緋色さんはどうしてここに?」
青年は緋色に興味津々のようで、視線が突き刺さるように感じる。
適当に話をして切りの良いところで立ち去ろう、そう考えた。
「映画の撮影に来てるんだよ」
「あ、知ってますよ、その映画。話題になってますね」
「そう?」
「はい! 公開されたら観に行きますね!」
(あれ、妹がファンなんじゃ……や、社交辞令か)
やっと緋色は彼のほうを向いた。
「あ……妹が観たがってたんで、一緒に」
「うん、ありがとう。嬉しいよ」
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