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「緋色さんはどうしてこの場所に来たんです? ここって分かりにくい場所でしょ? 偶然ですか?」
「ああ、それは子どもの頃来たことがあるから。祖母の家がこの下のほうにあって」
来た方向に向けて軽く顎をしゃくる。
「夏休みに遊びに来た時にここを見つけたんだ」
言わなくてもいいことまで答えながら緋色は考えていた。
「へぇ! そうなんですね! 映画のロケ地は緋色さんの推薦?」
「まさか。たまたまだよーーねぇ、きみ。この辺に住んでるの?」
話のついでのようにして、さっきから考えてることを口にした。自分の話に反応しないということは別人の可能性のほうが高いが。
「あ……えっと……おれは伯父の家に家族で遊びに来てるんです。この先下ったところにあります」
緋色が示したほうとは違う方向を指差した。
(あれ? 確か奏の家もこっちに……)
奏が来ない日が数日続いた時に訪ねたことがあった。今みたいに方向だけを聞いていて場所もはっきり分からないのに探したのだった。しかし、それは思ったよりも早く見つかった。そこだけ場違いのように整えられた土地に大きな家が立っていたからだ。
「ねぇ、きみ」
再び緋色は問いかけた。
「名前聞いてもいい? 歳は幾つ?」
「え」
青年は少し戸惑いを見せた。
(そりゃ、そうか。今会って突然名前って。子ども同士じゃあるまいし)
「や、ムリには訊かないけど」
「天城です。今大学四年です」
「天城? え? 下の名前は?」
(まさか!)
「かな……たです」
「え……」
(似てるけど、ちっがーう! 年齢もだいぶ下だしっ)
思わずそう叫びそうになった。
(でも……何か関係あるとか? これ以上ツッコんで訊いていいものか)
顔はにこにこ笑いながら、頭の中で思い巡らす。
「へ……へぇ、かなたくんて言うんだ。空の彼方の彼方くん?」
「空の彼方……? あ、そうです」
「あのさ……」
「はい?」
(いいや、訊いちゃえ。もしなんにも関係なかったら、それで終わりにしちゃえば。どうせ二度と会わない)
「きみとめちゃめちゃよく似た名前の天城奏って知ってたりする?」
意を決して言ったが、
「知ってますよ、従兄弟です」
あっさり返事が返ってきてしまった。
「えっ従兄弟っ?!」
「はい。四つ上の従兄弟のお兄ちゃんです。実はおれ、その家に遊びに来てるんですよ〜。あ、勿論同姓同名じゃなかったら、ですが」
「たぶん……同姓同名じゃないと思う。きみに似てるから。そうか……従兄弟か……」
(そうか……従兄弟か……)
同じ言葉を心の中で繰り返し、空を見上げる。
あの夏と同じ青い空。
(やっばり……あの夏は存在したんだ――)
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