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★ ★ 「いけない、もう始まってる。早く早く」  風呂上がりの頭にタオルを載せた状態で、パタパタと部屋の中央にあるローテーブルに近づく。  テーブルの上のリモコンをがしっと掴み、五十インチのテレビのスイッチを入れる。  金曜日のゴールデンタイムを飾る歌番組『サクラ・ステージ』。登場シーンは既に終わっていて、司会者横の雛壇に皆座っていた。ソロ、ユニット何組かのゲストたちが次々紹介されて行く場面だった。 「えーと『なないろ』は今日一人足りないね〜」  メイン司会を務める、『なないろ』と同じ事務所の大先輩浜名(はまな)翔斗(しょうと)がなないろに声を掛ける。 「そうなんです」  それに答えたのはリーダーの橙也。彼の髪色はオレンジ。なないろのメンバーはそれぞれ名前に沿った髪色をしており、ファンたちは自分の『推し』の色を『推しカラー』として身につけたりグッズを揃えたりしている。 「今、緋色は映画のロケ地にいます」 「緋色く〜ん」  浜名が呼び掛けると画面は変わり、大画面に緋色のアップが映った。 「こんばんは〜僕は今、夜の海にいま〜す」  画面の緋色は彼に向かって手を振る。  それからだんだんカメラは引いて行き、緋色の全身と夜の海が映った。ライトを浴びて緋色は浮かび上がるが、バックの海は真っ暗で余り良くわからない。遠くになんとなく船の灯りが見えるような気がするくらいだ。  彼はアップから引いて行くまでの間その顔をなぞるように画面に指先をつけていた。  タオルの下から覗く口元が笑みを形作っていた。 「ひーくん、今日もカッコいい」  画面はスタジオに戻り、他のゲストの紹介へと変わった。 「お水お水、今のうちに」  他のことは全く興味なさそうに一旦部屋を出た。 『あの日の花火』  あの日 見た花火  胸の中にずっとある  夜の空に咲く花のように  きみの瞳の中に 映る花火  きみの笑顔も 夜空に咲いた  僕の胸に中にずっとある  また 行こう  来年もまた  二人で見よう  そう 残像残る夜空に約束したのに  きみは突然 僕の前から  消え去った  でも僕の胸の中には  今もある  あの日に咲いた二つの花  忘れない約束  いつか また  夜の空に咲く花を  二人で見よう  信じてる  きみの笑顔が  見れる日を 「あの日の花火……『あの日』花火は見れなかった……」   彼の切ない溜息は賑やかなテレビ音に掻き消された。
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