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★ ★  昨夜はなんだか分からない高揚感でなかなか寝つけなかった。  夜に中継で新曲披露したせいもあるが、長年胸の中にあったものの破片を拾ったからかも知れない。  目覚めて冷静になってみれば、何故あんなに今日も彼方と会うことを望んだのだろう。勿論奏の話をもう少し聞きたかったからというのもあるが、それだけではないような気もする。  自分の気持ちを掴み切れない。  そんなことをぼんやりとした頭で考えながらベッドから這い出た。  ホテルのレストランで軽く朝食を取る。  部屋に戻る途中で壁に貼ってある大きなポスターが目に入った。  夏に良く見かける打ち上げ花火の写真が使用されている。 「花火大会……今日かー」  そこに記されている日付は今日のものだった。 「花火大会あるんですね」  突然後ろから声がして振り返ると、いつの間にか心菜が後ろに立っていた。  ロケに一番都合の良い宿泊場所といえばこのホテルで心菜が同じホテルを利用していたとしても別段なんの不思議もないし、それは初日からわかっていたことだ。 「おはようございます」  白いワンピースという清楚な雰囲気だが何処か内面のぎらついたものが顔を出ているような気がした。  一瞬にして疲れを感じるが勿論そんなことは顔には見せない。 「おはよう」  軽い挨拶を交わし「一緒に行きませんか」と彼女が言いださないうちに自然に見えるような感じでその場を離れた。  部屋を出たのは十一時過ぎ。  約束は昼過ぎとアバウトで、今から出発してのんびり行けばそんな時間に辿り着くだろう。  ロビーの手前で立ち止まる。  ソファに座っている心菜の姿が見えた。 (あれから一時間近く経ってるよなぁ)  自分が通るのを待っているかどうかはわからないが、避けたほうが無難なように思えた。エントランスから出るのは止め、中庭に通ずるドアから出ることにした。  部屋にいる間に調べたオートバイレンタル店に行き、一週間中型バイクを借りることにした。 (近くにあってラッキーだったな。まさかこんなところにあるとは思わな……いや、こういうところではレンタカーとかバイクとかって案外需要あるのかも)  何しろ交通の便はそれほど良くない。緋色の行きたい方面へのバスは一時間に一本だった。他もたいして変わらないだろう。 (それにしても……オレはいったい誰を乗せるつもりで……)  何故かヘルメットを二つ借りてしまった自分が不思議でしょうがなかった。    

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