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 バイクを祖母の家の前に置き、山道を歩いて行く。  昨日は少々手間取ったが今日はスムーズに進むことが出来た。あの頃は一時間くらいかかったような気もするが、今なら十五分は短縮出来る。 (まだ来てないかもしれないなぁ)  コンビニに寄って飲み物と昼用のパンを買った。 (なんとなく、二人分買っちゃったんだよな。ははは)  心の中で自嘲気味に笑う。 (さて。そろそろか)  前方が明るくなって来る。  木々を掻き分けると、青い海と青い空。それからーー。 「かな……たくん、もう来てたんだ」 (いけね。奏って言おうとしちまった)  崖の先端に昨日と同じように座った青年は、そのことには気づかなかったようで、昨日と同じ満面の笑みを浮かべた。 「緋色さん! 昨日見ましたよ! サクラ・ステージ。あ、妹と」  いきなりテンション高めで攻めて来る。 「そう? ありがと」  よっと言いながら、隣に座る。 「新曲良かったです〜歌詞がめちゃめちゃ切ないのに、曲調が夏らしくいつもの『なないろ』の明るさがあるから、余計切なさが沁みるっていうか」  く〜っと感慨深げに目を閉じ、手はぎゅっと拳を握っている。 「あの歌詞緋色さんが書いたんですよねっーーおわっあわわっ」  目を開けるとかなり近距離に緋色の端正な顔がある。しかもいつもの笑みはなく、真面目な顔でじっと見られていた。  思わず距離を取ってしまう。 「きみ……男の子なのに、めちゃ詳しいよね」 「あ、あのっ妹が言ってましたっっ」 「ふうん、そうなの」  いつも通りの軽い笑みを浮かべる。 (……そうは思えないけど) 「でもっ男なのにってことないと思いますっ」 「え?」 「男でもなないろ好きなヤツいますよ。緋色さんかっこいいし、憧れるヤツだって……」  最後は視線を外してもごもごと聞き取りづらい声で言う。心なしか頬を染めてはにかむような笑みを浮かべている。 (あれ?) 「ありがと」  なんだか自分の頬も染まったような感じがして、誤魔化すように話題を変える。 「ねぇ彼方くんはお昼食べた? パン買ってきたんだけど」  返事を待たずにガサガサと袋を漁り、パンとペットボトルの水を出す。 「えっ緋色さんがおれにっ」 「うん、良かったらどうぞ」 「ありがとうございます」  受け取る手が少し震えていて、感激が表情に現われていた。 (ひょっとして……本当はオレのファンだったりするのかなー……なんだっめっちゃ照れるんだけどっ)  緋色のほうも内心酷く動揺していた。 「焼きそばパン」 「うん。なんか懐かしいよね〜子どもの頃良く食べてた」 「わっなんか意外ですっ。緋色さんもっとおしゃれなもの食べるかと思ってた」 「ははっ。そんなことないよ。オレ結構普通よ」  そう言いながら袋を開けて齧り始めた。  
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