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「頂きます」
礼儀正しくそう言って彼方もパンを齧り始めた。
「美味しいっ。緋色さんから貰ったものだと思うと余計美味しいっ」
「そんな筈ないだろー」
また更に照れくさくなって、ははっと笑った。
パンをすべて食べ切るまで二人とも海のほうを向いていた。
(俺なんで今日も彼方に会いたかったんだろう。何を話したらいい? いきなり奏の連絡先なんか聞いてもいいものだろうか)
緋色は黙々と食べながらそんなことを考えていて、食べ終わっても何も浮かんで来ない。
(食べ終わっちゃったなぁ〜どうするかな〜)
今度はペットボトルの水をごくごく飲む。
「あ」
突如として浮かんで来て、つい声に出してしまった。
「どうしたんですか?」
「……彼方くん、夜出てこれる?」
「え?」
(めっちゃ不思議そうな顔してる。そりゃあそうか。急にこんなこと訊かれて)
「さっきホテルでポスター見たんだけど、今夜花火大会があるみたいだね。それで、一緒にどうかと思って」
「え? 花火大会? おれとですか?」
自分を指差してきょとんとしている。
(だよね、だよね〜昨日会ったばかりなのに、なんで花火大会っ?)
自分の膝を拳でドンドン叩きたくなる衝動に駆られるが、勿論そんなことはしない。
「あ、別に断ってくれて構わないよ。昨日会ったばかりのオレとなんて。家族だっているしね」
「あ、いえ、そんなことは。緋色さんに誘われて断るなんて……緋色さんこそ、彼女さんとか呼ばないんですか」
「彼女? 彼女なんていないよ」
「え? 本当に?」
探るような目で見詰めてくる。
「アイドルに彼女ってイメージダウンだし、いてもおれになんか言わないですよね」
「いや、ほんとにいないけど」
確かにSAKUプロの中には『彼女』がいて、それを公にはしてないし、取材で突っ込まれても隠し通している人間もいる。
しかし緋色の場合。
(そういや……オレまともに『彼女』とかいなかったよな……事務所に入る前も入ってからも)
今更そんなことを改めて考える。
緋色の表情を見て、彼方はホッとしたような顔をする。
「あの……おれで良かったら、一緒に……」
恥ずかしそうに口籠りながら改めて返事をした。
(なんだろう……初めてデートに誘った時みたいなこの気恥ずかしさは)
彼方が頬を紅潮させているのに釣られて、自分の顔も熱くなってくるような気がした。
(……調子狂うな……こんな表情、なんか奏を見ているような気がして……)
ここで黙り込んでしまうと妙な雰囲気になりそうで、平静を装って話し続ける。
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