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「確か七時半からだったから、七時くらいに〇〇海岸の△△入江で。わかる? 場所」 「はいっわかりますっ」  やっと『彼方』の表情になってホッとする。 「会場からは離れてるけど、人いなし。映画の撮影場所なんだ」 「あそこで撮影してるんですね。いいんですか、おれなんかに言って。昨日のテレビでも言ってなかったのに」 「きみなら大丈夫……ってなんとなく思った」  にっと笑う。 「あ、妹さんにも内緒で」  つけ加えると、彼方は両腕を使って大きな丸を作った。  お互い顔を見合わせて笑い合う。  緋色は足を崖の先端から出してぶらぶらさせ、青い空に向かって、うーんと伸びをした。視線は太陽が煌めく海を見ている。 「奏と出会った夏も花火大会があって見に行こうって約束したんだ。その日は朝から曇ってはいたんだけど、まさか夜になって雨も風も強くなるとは」  懐かしそうに目を細める。 「子どもだったから出来なかった時のことなんて考えなかったんだ。花火大会は翌日に延期されて、オレは約束の時間に約束の場所に行ったけど、奏は来なかったーーそれ以降奏には会ってないんだ……」 「…………」  隣にいる彼方が何も言わないので、緋色はそちらに顔を向けた。 「彼方くん? どうしたの?」  彼は俯いていた。一瞬間があった後、 「え?」   と顔を向ける。 「大丈夫?! なんか、顔色悪いけど」 「大丈夫ですよ」  そう言いながらも少し苦しそうに胸を押さえていた。 「おれ、一旦帰りますね」  立ち上がろうとしてよろける。緋色は慌てて立ち上がって支えた。 「送って行こうか?」 「大丈夫。なんでもないです」  へへっと笑うがそれもなんだか弱々しい。 「もし、体調悪かったら、今夜の約束も断っていいから」 「いえ! 行きます! 大丈夫です」  何度も大丈夫を繰り返すので逆に疑わしいが、それ以上突っ込むことが出来なかった。 「それじゃ、また夜に!」  バタバタと走り去って行った。それを緋色は呆然と見ていた。 (走れるくらいなら大丈夫なのか?) 「来れなくなったら、なったで、仕方ないか……」  小さく溜息を()いた。 「また、あの時みたいに……」 ★ ★  緋色はホテルに戻ると、とりあえず時間まで部屋で過ごすことにした。  過ごすと言っても特にすることも思いつかない。ひと眠りしてみようかと思ってベッドに転がっても全く眠れず、台本を読んでも頭に入って来ない。挙句に部屋の中をうろうろと歩き回ったり、バルコニーで煙草を吸っては消し、吸っては消しを繰り返していた。  時間の流れが酷く遅く感じる。 (オレ、なんでこんなそわそわしちゃってるんだろう)    
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