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 やっと六時過ぎになった。  空はまだ明るい。  突然テーブルの上のスマートフォンが振動し始めた。 「え、かなた」  慌てて掴むがそんな筈もない。 (あ、結局連絡先交換してなかった……) 「北海さん?」  発信してきたのは北海助監督で、それはそれで「何?」という感じだ。 「はい。緋色です」 『あ、緋色くん? 北海ですが』  いつも通りの柔らかな声が電話越しに聞こえて来た。 「え? 今日ですか?」  北海の要件を聞いて緋色は呆然とした。 「いえ……大丈夫です。今から準備して出ます。はい、では」  相手の電話が切れるのを確認してから、 「大丈夫なんかじゃねぇーよぉぉぉぉ」  スマホに向かって叫んだ。 「あ、んなこと叫んでる場合じゃなかった」  はっとしてもう一度スマホを操作しようとする。 「彼方くんに連絡、連絡ーー連絡?」  操作する手がぴたっと止め、無表情でテーブルの上にスマホを置く。 「うぉぉぉぉ」  突如として頭を抱えて叫んだ。 「そうじゃんっさっき、連絡先交換してないってっ。あー連絡できねぇぇぇ」  ファンにはけして見せられない姿はそこまでだった。 「仕方ない、とりあえず現場に行く」  緋色がバイクに乗って到着したのは、彼方と約束をしていた〇〇海岸の△△入江だった。しかし、彼方との約束を守る為ではなかった。  そこに待っていたのは、亜希他監督・北海助監督、カメラマン。それから緋色の相手役・永野心菜だった。  緋色は砂浜の手前にバイクを置くと、水際辺りに陣取っている一団の元に足早に近づいた。 「あ、来た来た。緋色くん、休暇中のところをごめんねー。ひょっとしてバイク借りたの? カッコいいね〜」  亜希他が手を上げる。神経質な男だがお気に入りの緋色にはかなりにこやかでフランクだ。  緋色はぺこりと頭を下げた。 (ほんとだよっ)  という心の叫びは勿論隠す。 「今日花火大会あるって聞いて急に思い立ったりしたから。緋色くんも心菜くんもこっちに残ってるし。それならって」  ごめんね、と謝罪の言葉を口にするも全く悪びれた様子もない。 (それなら……ってそんな簡単に。他人を振り回すなよぉ) 「七時半から始まるみたいだから、ちょっと急いで打ち合わせしちゃおう」 「はい」 「はい」  心菜と声が重なった。心菜は北海の隣に立ち先程から緋色に熱い視線を送っていた。朝とは違う、衣装用の白いワンピースに着替えている。一度彼女にも会釈をした後視線を合わせないようにしていたが、打ち合わせとなればそうは言ってもいられない。  四人は距離を縮めた。  どうやら台本はないらしく、亜希他が口頭で説明をした。
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