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確かに誰かがいるような感じがした。
ガサガサと低い木が不自然に揺れている。
心菜が率先して近づいて行く。
「貴方誰? 無断で写真でも撮ろうとしたの?!」
本性を現したような金切り声を上げた。亜希他も北海も呆然としている。
「ち、ちがっ」
心菜とは違う、男のものらしい声が小さく聞こえた。
(今の声……まさか)
「ちょっ……貴方、どうしたのっ」
今度は心菜の慌てた声。何が起きたのか、堪らず緋色は駆け出した。
「永野さん、どうしたんだ」
心菜の背中に声を掛けた。
「緋色さん……この人が」
心菜が振り返りその向こうに蹲っている男が見えた。
「急に苦しがって」
月明かりで見える顔は確かに酷く苦しそうだ。
そして、その男は。
「ーー彼方くん……」
「え、緋色さん、知り合い?」
心菜の質問には答えず、彼女を押し退けて彼方の傍に寄った。眉を寄せ目を閉じて、顔中に不自然なほど汗を掻いていた。右手でTシャツの胸の辺りをぎゅっと掴んでいる。
(そういえば昼間も顔色悪かった……っ)
緋色は彼の傍らに跪きその身体を支えた。
「彼方くんっ大丈夫っ?! 救急車呼ぶっ?!」
緋色の声掛けに彼方の目が薄っすらと開いた。
「だ……いじょうぶ、だいじょうぶだから……」
胸を掴んでいた手を解いて、自分を支えている腕に重ねた。
「だいじょうぶだから……ひー……く」
「彼方くん? かなたっ!」
★ ★
「……大丈夫?」
閉じた目がゆっくりと開 くのに気づき、緋色は心配げに声を掛けた。
「あ……ひー……緋色さん、ここは……」
「オレが泊まっているホテルの部屋」
それを聞いて彼方はガバっと起き上がった。
「ひょっとして、僕、緋色さんのベッドを奪ってしまった!!」
起き抜けで更にかなり慌てているのだろうか。今まで隠したことが露見している、と緋色は感じた。
「ははは。大丈夫だよ、ベッドもう一つあるから」
「そう……良かっ……いや、良くないですよねっ僕、倒れて迷惑掛けちゃってっ緋色さんが運んでくれたんですか」
「めっちゃ苦しそうだから救急車呼ぼうとしたんだけど、きみ、止めるから。とりあえずここにって。でもオレバイクだったから流石に意識のない人間は運べず、機材乗せる車で助監督に運んで貰ったよ」
それを聞いて余計に申し訳なく思ったのか、彼方は「ああー」と頭を抱え込んだ。
「僕は皆さんにご迷惑かけてしまったんですね〜本当に申し訳ありません〜あとで助監督さんにも謝罪を〜」
まるですぐ傍に謝罪の対象がいるかのように上掛けにつくくらいに深々と頭を下げた。
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