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「おー綺麗だね〜」
緋色の声は次々に上る打ち上げ花火の音に掻き消された。
花火が始まって二十分程が過ぎた。
彼は一人砂浜に座っている。あの日『彼方』と約束した場所だ。
何度か送ったラインには一度も返信が来なかった。だからこういう状況になるだろうというのも予測は出来ていたんだ。
それでも来ようと思ったのはけじめをつけたかったからだ。『あの夏』に奏と見れずに終わった花火。ずっと自分の心の中にあった想いにけじめをつけるために。
それなのに。
「ちぇっ花火が涙で滲むぜ〜」
戯けて言うが思ったよりもずっと打ちのめされている自分がいる。目の淵に留まっている水滴を落ちる前にごしごし手で拭った。
「あれ……」
花火の音で掻き消されていた、足音。
涙を拭って目を開けるとすぐ隣に人影があった。静かに座って花火を見上げている。
「奏……」
「ひーくん、意外と諦め悪いなぁ。こんななんの役にも立たない僕になんか、あんなにラインくれて。返信も全然しないのに……」
こちらを見ていない口元が微かに微笑んでいた。
「花火……綺麗だな。やっと……奏と見れた」
「うん……綺麗だね」
ふと、二つの視線合わさった。夜空を彩る花火を見ていた筈なのに。
その時緋色の胸にどうしようもなく、目の前のその顔を愛おしいと思う気持ちが湧き上がった。ごく自然にその唇に触れた。
「え?」
触れられたほうは勿論、触れたほうも「え?」となっていた。二人とも同時に自分の唇を手で覆い、目は吃驚したように大きく開けていた。
先に我に返ったのは緋色のほうだった。
(え〜どういうこと? どうしてオレ、こんなこと)
そう思ったが、更に深く考えると。
(そうか……そういうことだったのか。どうりでオレ、今まで彼女とか出来ないはずだよ……オレの心の中にはずっと……奏が…………)
すとんと納得がいったような気がした。
「〜僕の胸にはずっとある〜かぁ」
ワンフレーズ節付きで口にした。
「ひゃぁっ」
まだ口を覆っている奏から変な声が漏れた。
「え? なに?」
「わぁ〜生歌、生歌」
緋色のファンであるほうの奏が顔を出す。鼻歌とは言え『なないろ』の『緋色』の生歌をこんな間近でしかも自分一人だけが聴けたとなると、ファンとしては当然である。
「あははは」
緋色はなんだか妙に可笑しくなってきてしまって、一頻り笑う。
それから真剣な眼差しを奏に向ける。
「……ねぇ、もう一度キスしてもいい? ーー嫌だったり、気持ち悪いと思ったら遠慮なく断ってよ」
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